第9章 あっと言う間のバケーション(その83)
「あははは・・・、そ、そうだ、その脳味噌がだ・・・。」
祖父は、哲司の仕草を面白く思ったのか、そう言って笑った。
「爺ちゃん、学校の勉強って好きだったの?」
哲司は、「この際だから、聞いておきたい」と思った。
もちろん、哲司は、勉強は嫌いである。
学校は好きだが、勉強は嫌い。本音を隠さないで言えば、きっとそうなるだろう。
「うっ、う~ん・・・。爺ちゃんは、国語は好きだったなぁ~。」
祖父は、そう答えてくる。
「えっ! 国語が好きだったの! ・・・・・・。」
「ああ・・・、で、運動は苦手だった。」
「えっ! う、うっそう~!」
「嘘なんか言わない。爺ちゃん、かけっこが弱くってなぁ・・・。
だから、哲司のことは羨ましいって思う。哲司は、リレーの選手にも選ばれるんだろ?」
「う、うん・・・、そ、そうだけど・・・。」
哲司は、本当に意外だった。
国語が好きで、運動は嫌い。そう言う祖父が信じられなかったのだ。
祖父は、田畑を耕し、山にも行き、農作業や林業の手伝いなんかもしている。
都会で育った哲司とは違って、その身体はまさに赤銅色をしている。
腕の筋肉だって、父親のそれとは比べものにならないほど太くって硬い。
そんな祖父が、例え小学校の時代であっても、運動が苦手だったとは・・・。
どう考えても、納得できるものではない。
「今でもそうだが、爺ちゃん、それほど身体が大きくないだろ? おまけに国民学校に通ってた頃は、病弱でなぁ・・・。」
「えっ! 病気だったの?」
これまた、哲司には信じられない話である。
「ああ・・・、別に、特別に大きな病気だったってことじゃあないんだが、ひ弱でな、すぐにお腹を壊すし、風邪を引いたりもしたんだ。」
「へぇ~・・・、そ、そうだったんだ・・・。」
「だからでもあるんだな。」
「ン? 何が?」
「国語が好きになったのは・・・。」
「ん?」
「そうして、よく学校を休んでた。で、家で、ひとりで寝てたんだ。」
「お、お母さんは?」
哲司は、自分の場合と比べて言う。
滅多に学校を休んだりはしないが、それでも、年に1度ぐらいは熱を出して休むことはあった。
そうした場合、必ず母親が傍についていてくれて、いろいろと面倒をみてくれる。
いくら口うるさい母親でも、さすがに病気のときだけは小言も言わなかった。
「爺ちゃんの生まれた家も農家だったからな。お母さんも毎日畑に出ていたんだ。
だから、少々の熱ぐらいじゃあ、そうしてひとりで寝てることになったんだ。」
「あああ・・・、そ、そうか・・・。」
「で、暇だろ? ただ、寝てるってのは・・・。」
「う、うん・・・、そ、そうだね・・・。」
「で、本を読み漁ったんだ。お兄ちゃんのだったけれどな・・・。」
祖父は、ガスコンロの火を調整しながらそう言ってくる。
(つづく)