第9章 あっと言う間のバケーション(その78)
皿が2枚あるのだから、当然に祖父と自分のものなのだろう。
哲司はそう思った。
で、1枚ずつをそれぞれの席のところへと置く。
「この紙は、手が汚れるからなの?」
油を持って来た祖父に哲司が訊く。
「あははは・・・。ま、そういう使い方も出来るが、爺ちゃんが用意した意味はちょっと違うんだなぁ~・・・。」
祖父は笑いながらそう答えてくる。
ここら辺りが家とは違うのだ。祖父は、頭から否定してこない。
だから、その後の言葉が素直に聞けるのかもしれない。
「じゃ、じゃあ、どういう風に使うの? お皿が汚れないように?
でもないよねぇ~・・・。」
哲司は自分で言って自分でそれを取り消しに掛かる。
「・・・・・・。ま、そのうちに分かるさ。」
祖父は、哲司に考える時間を呉れたようだった。
「ん? これって、ゴマの油なの?」
哲司が立て続けに訊く。
「おおっ! よく、ゴマ油だって分かったなぁ。」
「だ、だって・・・、そう書いてあるから・・・。」
哲司は、祖父が手にしていた油の容器を指差して言う。
「純正ゴマ油」と書かれてあったからだ。
「あはは・・・、なるほど・・・。じゃあ、哲司の家ではサラダ油なのか?」
「う~ん・・・、知らない。」
「そ、そうか・・・。ま、そうだろうな。子供は、美味しければ何だって構いやしないしな・・・。」
祖父は、照れたように笑う。
「う、うん・・・。でも、そのゴマ油って美味しいの?」
「別に、油が美味しいわけじゃあない。ただ、身体に良いと言われているのと、この香りが爺ちゃん好きでな・・・。」
「ふ~ん・・・、そうなんだ・・・。」
「哲司も、これで素揚げしたものを食べれば、きっとその良さが分かると思うぞ。」
「う、うん・・・。」
祖父が、持って来たゴマ油を鍋の中へと注ぎ入れる。
「た、たくさん入れるんだねぇ~・・・。」
哲司は感心したように言う。家で母親が天麩羅を揚げているのを遠くから見たことがあるが、こんなに並々と入れていなかったような気がしたからだ。
「たっぷりの方が美味しいんだ。それにな、油の温度が一定に保てるんだ。
で、結果として、美味い素揚げが食えるってことだ。」
「そ、そうなんだ・・・、分かった・・・。」
哲司は喉がゴクリと鳴るのを覚えた。
(つづく)