表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
887/958

第9章 あっと言う間のバケーション(その76)

哲司が手を洗っている間に、祖父がどこからか大きくて平たい鍋を取り出してくる。


「そ、それを使うの?」

哲司にも見覚えのある鍋だった。

そう、天麩羅を揚げるときに使う鍋だ。

家にあるものと多少は大きさが違っているが、その形から同じようなものだろうと思う。


「ああ・・・、そうだ。これも、爺ちゃんと同じで、年季が入ってる。」

「ネンキって?」

哲司はその言葉を知らなかった。


「長い間使ってるってことだ。」

「そ、そうなんだ・・・。」

「確か、哲司のお母さんが結婚する直前に買ったものだから、もう何年になるのかな?」

「へ、へぇ~・・・。」

哲司は、両親が結婚したのがいつなのか知らなかった。


「で、でも、それって、うちにあるのより大きいよね。」

「おう、そうなのか? ああ・・・、それはそうだろうな。」

「ん?」

哲司は、祖父がそれを不思議に思わないことが不思議だった。

哲司の家は両親と哲司で3人だ。そして、祖父のところは、祖父ひとりだ。

哲司の家にある方が大きくて当たり前ではないかと考えたのだ。


「哲司の家は3人だろ?」

「う、うん。」

「この鍋を買ったとき、爺ちゃんの家は大人が4人いたからな。」

「ん? 4人?」

「ああ・・・、爺ちゃんに、婆ちゃん、そして哲司のお母さんにその妹、つまりは昨日来てた春子おばちゃんだ。」

「あああ・・・、そ、そっか、そうだったんだね・・・。」

哲司もそれで納得が行く。

そうした時期が昔にあったという感覚でだ。


「だからな、この鍋、最近ではあまり使わんようになった。

いくらなんでも、爺ちゃんひとりじゃあ、この鍋は大きすぎるからなぁ~・・・。」

「・・・・・・。」

「でも、こうして哲司が泊まってくれるから、この鍋にも久しぶりに登場してもらうことにした。鍋も喜んでるだろう。役に立って・・・。」

「そ、そうだね・・・。」

哲司は、どうしてか、何か良いことをしたような気持になった。



祖父がその鍋をテーブルのガスコンロの上に運んでいく。


「手、ちゃんと洗ったのか?」

「う、うん、ちゃんと石鹸使って洗ったよ。」

「じゃあ、見せてみな。」

「う、うん・・・。」

哲司は踏み台から降りて、祖父の元へと急ぎ足で行く。

いよいよ自分で天麩羅、いや、素揚げが出来ると思うからだ。



(つづく)






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ