第9章 あっと言う間のバケーション(その75)
「哲司はひとりっ子だしなあ・・・。」
祖父は、どこか残念がる雰囲気で言う。
「う、うん・・・。」
哲司も、兄弟が欲しいと思った時期もあった。
どうして自分には兄弟がいないんだろうと考えたこともあった。
友達の半分ぐらいは兄弟がいた。もちろん、お姉ちゃんや妹を含めてのことだが。
そして、哲司のようにひとりっ子も結構いた。
「哲司に弟か妹がおれば、今、爺ちゃんが言ったようなことはよく分かった筈なんだ。」
「ん? どうして?」
「だって、そうだろ? そうして、赤ん坊が生まれて、ハイハイをして、立つようになって、そして歩けるようになる。そうした場面を間近で見ることが出来た筈だからだ。
そして、それとともに、お父さんやお母さんが、どのようにその子を育てて行っているかが体感できた筈なんだ・・・。」
「う、う~ん・・・。」
「人間、自分の事はよく分からないものだが、そうして弟や妹がいると、生まれてからどうして大きくなっていくかがよく分かるからな。」
「な、なるほど・・・。」
「だから、それも、経験なんだ。
弟や妹がいると、やがては哲司と一緒に幼稚園や小学校に通うようになる。
そうすると、哲司にも一定の役割が求められる。」
「やくわりって?」
「そ、そうだな、学校までちゃんと安全に連れて行くとかな・・・。」
「ああ・・・、そ、そうだね・・・。」
哲司は、弟や妹の手を引いて登校してくる友達の姿を思い出す。
「わぁ、大変そう、面倒くさそう」と思ったことも含めてだ。
「そうした中で、自分より小さい子、弱い子に対する労りの気持が沸いて来るんだ。
そして、そうした気持ってのは、これから哲司が大人になって行く上で、今まで以上に大切になってくるんだ・・・。」
「ど、どうして?」
「う~ん・・・、どうしてってか・・・。
今の哲司に説明しても、なかなか理解が出来んだろうなぁ・・・。
そのうちに分かってくるとしか言いようが無い。」
「・・・・・・。」
そう言われてしまうと、哲司も訊きようが無くなる。
「おう、晩飯、晩飯・・・。」
祖父は、そう言って台所へと戻って行く。
「ぼ、僕は、何をしたら良い?」
哲司は、どうしてか、自分ひとりが置き去りにされたような気になって言う。
本当は今の話をもう少し続けていたかったからかもしれない。
「ここで良いから、手を洗え。」
祖父は、踏み台を流しのところへと寄せて、そう言ってくる。
「う、うん・・・、分かった・・・。」
哲司はにっこり笑って急ぎ足で行く。
(つづく)