第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その46)
「と、いうことは、そのことが、今回の奈菜ちゃんの思いに繋がっていると?」
哲司は、マスターがそのように思っていての言葉だと思った。
「そうです・・・そんな気がするのです。
何しろ、母親の影響が強い子ですから。」
マスターは、そこで小さな溜息をついた。
哲司は、奈菜が「ここにいるの」と自分のお腹に手を当てたときの姿を、再び思い浮かべる。
「妊娠が分ってから、娘は彼に結婚を迫りました。
私は、結婚そのものにも反対でしたが、かといって、こちらの思惑だけで子供を堕ろすこともできませんでしたから、その成り行きをハラハラしながら見ていたのです。」
「相手のことが気に入らなかった?」
「まあ、それもありましたが、何しろ娘は当時18歳でしたからね。」
「ええっ!・・・・と、いうことは、今の奈菜ちゃんと同じ高校生?・・・。」
哲司は、意外な共通点に、驚きと共に、奈菜が産むことに拘るひとつの理由があるように思った。
「いえ、高校は卒業していたんですが、社会人になったばかりの頃でした。
幾ら社会人になったからと言っても18歳ですよ。いくら身体つきは大人になったとは言っても、まだまだ子供です。
大人の社会がどのようなものなのかについては、まったく理解できてはいません。
ましてや、結婚をするということが社会的にどのような意味を持つのか、夫婦というものがどういったものなのか、といった知識はまったくなかったと言えるでしょう。
ですから、結婚なんてまだまだ早すぎる。それが、私の感覚でした。」
マスターは遠い昔を思い出すようにして話している。
「でもねぇ、私どもが気がつくのが遅かったんです。」
マスターは腹の奥から搾り出すような声でそう言った。
「と言うと?」
「娘は、妊娠した事実を私どもにはなかなか言わなかったんです。
その上、もともとややふっくらとした体型でしたから、妻もまったく気がつかなかったんです。
どうも変だ、と気がついてから問い詰めたのですが、その時が、堕ろせる期限一杯だったんです。」
「それで?」
「すぐに・・・と言ったのですが、娘は何としてでも彼と結婚をして子供を産むんだと言って引き下がらなかったんです。」
「・・・それでも、ちゃんと結婚されたんですね。」
「そこが、間違いの始まりだったんですが・・・・。」
マスターの顔が、一段と苦しげに見える。
(つづく)