第9章 あっと言う間のバケーション(その66)
そのふたつの箸箱を、またまた右手と左手にそれぞれ持つようにしてテーブルへと運ぶ。
哲司の箸箱ぐらいならば2個でも片手で持てるのだが、祖父の箸箱がある以上、そうも行かなかったからだ。
「ど、どうして、爺ちゃんの箸箱ってこんなに大きいの?」
哲司は、それを祖父の席に置きながら訊く。
一度はその理由を聞いてみたかった。そのチャンスだと思った。
「おう、その箸箱なぁ~・・・。」
祖父は哲司の疑問が理解できるという顔をした。
「ど、どうしてだと思う?」
祖父は、そう訊いてくる。
いつもそうだ。哲司が何かを訊くと、祖父はそう簡単にその答えを教えてくれない。
必ずと言って良いほどに、「哲司はどう思う?」と逆質問してくる。
だからと言って、哲司がそうした疑問を訊ねることを止めないのは、その後に続くいろいろな話の中で、祖父がその答えをじっくりと説明してくれるからだ。
「う、う~ん・・・、大人だから?」
哲司は、そうは答えたものの、「どうも違うな」とも思っている。
母親たちが使っていた箸箱も、哲司のそれほどには小さくないものの、祖父のそれとは比較にならない。
祖父の箸箱の半分も無い大きさだった。大人なのにだ。
「あははは・・・、な、なるほどなあ・・・、ま、それも間違いじゃあないんだが・・・。」
祖父は、小さく頷くようにしてそう言ってくる。そして、言葉を続けてくる。
「哲司は、爺ちゃんの箸箱を開けてみたことは無いのか?」
「う、うん・・・。無いよ。」
「ああ・・・、それだったら仕方が無いな。」
「ん? ど、どうして?」
「じゃあ、今、開けてみな。」
「えっ! 開けて良いの?」
哲司は意外なことを言われたと思って言う。
祖父の箸箱に触れたことはあっても、それを開けるなんて、どうしてか「してはならないこと」のように思っていたからだ。
「ああ・・・、許すから、開けてみな。」
「う、うん・・・、じゃあ、開けるよ・・・。」
哲司は、一旦自分の席に自分の箸箱を置いてから、再び祖父の席に戻るようにして言う。
で、そっと祖父の箸箱を手に持った。
「ええっと・・・。」
哲司は、その開け方に迷った。
「開け方は、哲司のと一緒だ。」
祖父がそう教えてくれる。
「う、うん・・・、分かった・・・。」
で、哲司が祖父の箸箱を開ける。
(つづく)