第9章 あっと言う間のバケーション(その63)
「ああ、それで良いんだ。で、心配なら、そのゴムホースを引っ張ってみな?」
祖父は、まるで肝試しでも提案するような顔で言ってくる。
「ひっ、引っ張るって?!」
哲司は言われている意味が分からない。折角嵌めたのに・・・と思う。
「さっきと逆で、ゴムホースを抜くように引っ張ってみろってことだ。」
「ど、どうして? 折角嵌めたのに・・・。」
「だから、引っ張ったぐらいで抜けるようじゃ駄目なんだろ?」
「そ、それは、そうだけど・・・。」
それでも、哲司は今更ゴムホースを引っ張りたくはなかった。
もし抜けたら、またやり直さなければいけなくなる。
「良いから引っ張ってみろ!」
祖父は、どうしてかやや強い口調になる。
「わ、分かった・・・。」
哲司は渋々にだが、ゴムホースを手にする。
「大丈夫だ。まだ、ガスは通ってない。」
なかなか引っ張らない哲司を見て、祖父がそう激励してくる。
「う、うん、じゃあ・・・。」
哲司が少しの力でゴムホースを引っ張る。もちろん、抜けはしない。
「そんなへっぴり腰でどうする。もっと強く引っ張ってみろ!」
祖父は、そう言って、テーブルの上にあったガスコンロを手で押さえた。
「わ、分かった!」
哲司も覚悟を決める。抜けたら抜けたときの話だと思うようにする。
で、かなり思い切った力で引っ張った。
だ、だが、ゴムホースは、まるで哲司とガスコンロが綱引きをしているかのように、その間でピ~ンと張り詰めただけだった。
抜けるどころか、哲司が引っ張ったことで、ガスコンロの方が少し手前に動いた。
それを祖父の手が押さえてくれていた。
「なっ! これで分かっただろう? このクリップで留めると、哲司がそうして引っ張ってもゴムホースが抜けたりはしないんだ。」
祖父がそう説明をしてくる。
「す、凄い!」
哲司は、そのクリップの力強さを実感した。
最初、ゴムホースを差し込んだときには、それこそ、するっと簡単に入った。
つまりは、引っ張れば簡単に抜けそうな状態だった。
それは、自分で入れたからよく分かっていた。
それなのに、あんな小さくて細い針金で出来たようなクリップを嵌めることで、こうも抜けなくなるとは思ってもみなかったのだ。
祖父が手で押さえてくれていなかったら、今頃は、コンロの方が飛んできていたかもしれない。
「なっ! こんな小さな簡単な器具なんだが、その威力は凄いものがあるだろ?」
祖父は、それを哲司が体感できたことを喜ぶような言い方をする。
(つづく)