第9章 あっと言う間のバケーション(その60)
「ほうほう・・・、そうだったのか・・・。」
祖父は、感心したような顔でそう言ってくる。
多少、祖父が思っていた道筋とは違っていたようだ。
「う、うん・・・。で、でも、これで良いんでしょう?」
哲司は、いまだに興奮が収まらない。
「おお、大正解だ。よく出来ました、まる!ってことだ・・・。」
祖父もにこやかに笑ってくれる。
「よ~し! じゃあ、哲司の大好物もメニューに加えるか! 何かご褒美をやらんとな・・・。」
祖父はそう言って冷蔵庫の方に移動する。
「ん? 僕の大好物って?」
「タコだ・・・。」
「ん? 蛸?」
哲司は、別に蛸は嫌いではないが、かと言って大好物だなどと言った覚えはない。
「ああ、4本足のな・・・。」
祖父は意味ありげに笑って言ってくる。
「んんん? 4本足?」
「ああ、爺ちゃんは、婆ちゃんみたいに8本足までは切れんのだ。だから、4本足で我慢してくれ。」
相変わらず、祖父は笑いながら言う。
「ん! そ、それって、ウインナーのタコ?」
哲司はようやくそのものに行き当たる。祖母がよく作ってくれたものだ。
祖母の作るハンバーグも美味しかったが、ウインナーのタコはその足の部分の切り方が見事だった。今にも動き出しそうなほどにリアルだった。
「バレたか!」
祖父は楽しそうに言う。
「それだったら、大好きだよ。で、でも、それも、素揚げに出来るの?」
哲司はその点が不安だ。
「ああ、もちろんだ。もともと、あれは素揚げが殆どだからな。」
「う、うん・・・、た、楽しみ・・・。ぼ、僕が自分でやっても良いんだよね?」
「もちろんだ。爺ちゃんは食わんから、哲司が皆食べれば良い。5つぐらいで良いか? 他にもいろいろとあるからな。」
「う、うん・・・。」
哲司はワクワクしてくる。もうその数なんてどうでも良かった。
「じゃあな、そこにあるガスコンロをあのテーブルの真ん中に置いてくれ。」
祖父は準備してあったガスコンロを指差して言う。
「わ、分かった・・・。」
哲司は、小走りで行って、それを抱えるようにしてテーブルのところまで運ぶ。
そして、椅子の上に膝を付くようにして、先ほど自分が敷き詰めた新聞紙の上にガスコンロをそっと置いた。
「置けたよ!」
哲司の声が弾んでいる。
(つづく)