第9章 あっと言う間のバケーション(その59)
「お、おう! か、完璧じゃないか!」
真後ろから祖父の声がした。
いつのまにか、哲司の背後に立っていたのだ。
どうやら、哲司のすることをじっと見ていたらしい。
「えへっ! ・・・・・・。」
哲司は得意満面だった。何とも久しぶりに感じる充実感であり高揚感だ。
「やっぱりなぁ~・・・。哲司は、その気にさえなれば、何だって出来る子なんだ。」
「・・・・・・。」
「なっ! そう思うだろ?」
「う、う~ん・・・。」
哲司は、今はそれに答えたくは無かった。
これが出来たからと言って、何でも出来ると言われるのはやはりどこかにしんどさがある。
今は、とにかく、この新聞紙を上手く並べられたことで大満足していたかった。
「そ、それにしても、よく、その真ん中を空けることを思い付いたなぁ~。」
祖父が感心するかのように言ってくる。
「ああ・・・、これ?」
「ああ・・・、爺ちゃんは、さすがにそこまでは気が付かんだろうと思ってたんだが・・・。」
「えへへへ・・・。」
「いつ気が付いたんだ?」
「う、う~んと・・・、一番最後かな?」
「ええっ! さ、最後だったのか?」
「う、うん。」
「じゃ、じゃあ・・・、どうしてその部分を空けておくことにしたんだ?」
祖父は、哲司の思考の組み立て方が理解できないようだった。
「そ、それは・・・、爺ちゃんが言ったからだよ。」
「ん? 爺ちゃん、何か言ったか?」
「まずは、テーブルの端っこから合せろって・・・。」
「ああ・・・、確かに、そうは言ったが・・・。」
「だからだよ・・・。それに・・・。」
「ん? それに?」
「さっきの畳の並べ方・・・。」
「おうおう、やっぱり、あれが役に立ったか?」
やはり、祖父は一定のヒントを与えるために、あの畳の敷き方を説明してくれたのだろう。満更でもない顔で言ってくる。
「う~ん、役に立ったかどうかは分からないけど・・・。
でも、縦向きと横向きを組み合わせると、いろんな並べ方が出来るんだって分かって・・・。
で、同じように考えてみたんだ。テーブルが和室で、この新聞紙が畳ってことで・・・。」
「おう、な、なるほどなあ~・・・。」
「それで、あれこれ並べ方を変えてみてたら、いつの間にか、四つ角を綺麗に囲めてたんだ。」
「ほうほう・・・。それで?」
「で、気が付いたら、真ん中だけが空いてて・・・。そしたら、最初に爺ちゃんが横にどけていたこの半分の新聞紙を思い出したんだ。」
哲司は、珍しく饒舌だった。
(つづく)