第9章 あっと言う間のバケーション(その58)
「う、うん・・・、そうだよ・・・。」
哲司は、そうは言っているものの、正直、内心では舌を巻く思いだった。
祖父は、どうしてそんなことも知っているのか?
どこでそんなことを勉強したのだろう? とだ。
「よし! じゃあ、向こうに戻ろう。夕飯の準備をしなくっちゃな・・・。」
祖父はそう言って立ち上がる。
「う、うん・・・。」
そう答えるものの、哲司はそこからなかなか立ち上がれない。
それだけショックが大きかった。
たかが畳である。
六畳間だから6枚の畳を敷くだけなのだが、そこにはそうした工夫があったなんて考えたこともなかった。
今の話を聞かずに哲司が畳を敷くとしたら、上3枚下3枚と同じ方向に並べただろう。
それがもっとも簡単で分かりやすいからだ。
トランプだって、きっとそう並べる。
それなのに、昔の人は、単に敷き詰めれば良いと言うのではなく、縁起も担ぎ、なおかつ歩きやすいようにと考えてこの並べ方を編み出したと言う。
それって、凄いことだと思うのだ。
そして、それをああしてちゃんと小学3年生の哲司にも分かるように説明してくれる祖父って、もっと凄いと思う。
「お~い、哲司! どうした? 痺れでも切らせたか?」
台所から祖父の声がした。
「ううん・・・、大丈夫だよ・・・。」
哲司は、そう言って、ようやく立ち上がる。
そして、改めて、部屋全体に敷き詰められた畳の並び方を見つめる。
目に焼き付けようとしたのだ。
で、急いでテーブルのところへと戻る。
「この続きをやらなくっちゃね・・・。」
哲司は忘れてはいなかった。
そう、新聞紙をテーブル一杯に敷く作業をだ。
どうしてか、やる気が沸いていた。
「おう、頑張ってみな・・・。」
祖父は嬉しそうにそう言った。
それから暫くは、哲司の声も祖父の声もその部屋に響くことはなかった。
ただ、哲司が弄り捲くる新聞紙の乾いた音だけが、カサカサカサ・・・と聞こえるだけになる。
「わあっ!!!! で、出来た! 出来た!」
10分以上も経ってからだったろうか、突然、哲司がそう叫んだ。
(つづく)