第9章 あっと言う間のバケーション(その57)
「ん? 畳?」
哲司は、どうしてここで畳の話に戻るのかが理解できていない。
「だから、それが3つ目の理由だ。」
祖父はようやく答えに辿り着いたという顔をする。
「んんん?」
哲司はそれでもまだ頭の整理がつかない。
「畳ってのは、目があるだろ?」
祖父は、一呼吸おくようにしてから言ってくる。
「目? 目って、この目?」
哲司は自分の目を指差す。
「いやいや、その目じゃあない。これだ。」
祖父は、そう言って足元の畳を触る。
「ん?」
「こっちからだと、どうしても突っかかるようになるだろ?」
「ああ・・・、そうだね。」
哲司も同じように畳の表面を手で撫でるようにして言う。
「でも、こっち向きだと、滑る様にスムースだろ?」
「う、うん・・・。」
「つまりはだ。こうして足が突っかからないように、出入り口に対して横向きに畳を敷くように考えられているんだ。
それだと、急いで歩いても、畳に足を取られるということがなくなるからな。」
「あああ・・・、そ、そうなんだ・・・。」
「だから、この部屋の畳をよ~く見てみろ?
どこから入ってきても、畳が横向きとなったところから入るようになっている。」
「あっ! ほ、ほんとだぁ~・・・。」
哲司は、改めて部屋全体を見渡してみる。
「なっ! だから、非常に実用的な要素だって言ったろ?
で、なおかつ、非常に重要なことなんだ。
そうでなければ、怪我に繋がることだってあるんだからな・・・。」
「う~ん・・・。」
哲司は感心する。
「昔の人は、単に、部屋に畳を敷けば良いなんて考えてなかったんだな。
どうしたら、安全に、そして気持ち良くその部屋が使えるようになるか。
そうしたことを経験から考え出したんだ。」
「す、凄いねぇ~・・・。」
「ああ、そうだ。だからな、昔の人のことを馬鹿にしちゃあいけないんだ。」
「ぼ、僕は、馬鹿になんてしてないよ!」
哲司は懸命にそう主張する。
「おお、そうだな。哲司は馬鹿になんてしてないよな。
だから、こうして爺ちゃんの話もじっくりと聞いてくれるんだよな。」
祖父は、嬉しそうにそう言ってくる。
(つづく)