第9章 あっと言う間のバケーション(その56)
「ええっっ! ク、クイズ?」
哲司も忘れている訳ではなかったが、一応は、そう惚けてみる。
何とかその間に答えを見つけなければ・・・と思うからだ。
「さっき出したろ? この部屋の出入り口はどこなんだって・・・。」
祖父は、哲司がそうして時間稼ぎをしていることは百も承知という顔で言ってくる。
「う、う~ん・・・、わ、分かんないよぅ・・・。」
哲司はギブアップをする。
いくら考えたって分かりはしない。そう思ったからだ。
この部屋は、それこそどこからでも出入りできるのだ。
四方から出入りできる。
南面は縁側がついている。そして、西側もだ。
で、北側には他の部屋があって、東側は囲炉裏がある板間へと続いている。
事実、哲司は、その縁側からも出入りするし、もちろん北側の部屋にも行くし、板間とも行き来する。
その際、「ここから入るんだ」と意識したことはない。
つまりは、部屋の出入り口なんて意識になかったのだ。
「降参するのか?」
祖父は笑いながら言ってくる。
「う、うん。降参!」
「おいおい、何でも、そう簡単に降参なんていうものじゃあない。そこが哲司のいけないところだ。
よ~く考えてみろよ。少なくとも、哲司は、ここ数日だけでも、ここを使ってたんだろ?」
「そ、それは、そうだけど・・・。」
「だったら、自分がどうしていたかを思い出せば分かることだろ?」
「んん? どうしていたか?」
「ああ、そうだ。哲司が、どう出入りしてたかを考えれば良いんだ。それが答えなんだからな。」
「う、う~ん・・・、そ、そう言われても・・・。」
哲司は、ここ数日の自分の動きを考えてみる。
「だ、だって・・・。」
「ん?」
「どこからでも出入りしてるんだよ。それなのに・・・。」
「おお、そうだろ?」
「んん? ど、どういうこと?」
「どこからでも出入りできる。それが答えだ。」
祖父は簡単に言ってくる。
「えっ! ど、どうして? だ、だって、この部屋の出入り口はどこだって・・・。」
「確かにそう訊いた。で、答えは、周囲全部だってことだ。それがこうした家の特徴なんだ。」
「そ、そんなぁ・・・。」
哲司は不満である。
だったら、どうしてそんなクイズを出したのか。
「で、その出入り口に向かって畳が縦にならないように考えられているんだな。」
祖父は、そこに畳の敷き方の知恵と工夫があるとでも言いたいようだった。
(つづく)