第9章 あっと言う間のバケーション(その54)
「じゃ、じゃあ、どうして僕の家はあんな造り方になっているの?」
哲司はそれが分からない。
この祖父の家と、自分の家。
別に、どっちが良いとか優れているとか、そうしたことを考えている訳ではない。
ただ、祖父が「昔から日本の家は・・・」と言うものだから、「だったら、どうして僕の家は・・・」と思うだけだ。
「そ、そうだなぁ~。」
祖父は考えるようにする。
その答えは知っているのだが、それをどのように小学3年生の哲司に話そうかと考えているようだった。
「・・・・・・。」
哲司は黙って祖父の顔を見上げる。答えを待っている。
「ま、座れ。」
祖父は、六畳間の真ん中に哲司を座らせる。
そして、自分もその傍に胡坐を掻いて座る。
「哲司は、これから竹笛を作ろうとしてるんだよな?」
「う、うん・・・、そ、そうだけど・・・。」
哲司は、どうして今また竹笛の話をされるのか首を傾げたくなる。
「竹笛は、楽器店に行けば、売ってるよな?」
「ん? そ、そうなの?」
哲司は、竹笛が売られているという意識はなかった。
プラスチックの笛はあっても、本物の竹笛が楽器店に置いてあるとは思っていなかった。
「それでも、哲司は、ここで自分で竹笛を作りたいんだろ?」
「う、うん・・・。」
“爺ちゃんに教えてもらって・・・”という言葉を飲み込む哲司である。
「その笛と同じなんだ。」
「んんん???」
哲司は、訳が分からない。
「この家は、もちろん大工さんに頼んで造ってもらったんだが、この間取りというか、こうした家を作って欲しいって言ったのは爺ちゃんなんだ。
つまりは、今の言葉で言えば、“オーダーメイド”だ。
まったく同じ造りの家は他にない。」
「う、うん・・・。」
「で、哲司が今住んでいる家は、住宅販売会社が造って売っていたものなんだ。
それを、哲司のお父さんとお母さんが買ったんだな。」
「そ、そうなの?」
「つまりは、既製品なんだ。造られた家を見て、お父さんたちが今の家に決めたんだ。その点が根本的な違いなんだ。」
「あああ・・・、そ、そうなんだ・・・。」
哲司は何となく祖父が言いたいことが分ってくる。
(つづく)