第9章 あっと言う間のバケーション(その51)
「ん? ま、まだあるの?」
哲司は「こりゃあ、大変だぁ~」と思う。
そうして、祖父が指を折って来るということは、もうひとつぐらいじゃあないことを示している。
いっぺんに幾つものことを言われると、到底覚え切れないからだ。
「で、ふたつ目は、バツ印を作らないように考えてあるってことだ。」
祖父は、また指を1本折って言ってくる。
「ん? バツ印って・・・、あのペケってやつ?」
「ああ、そうだ。」
「んんん? ど、どういうこと?」
哲司は、そのバツ印の意味が分からない。
「哲司も、ペケって、見るのも嫌だろ?」
祖父は、苦笑いをするように言う。
「う、うん・・・、それはそうだけれど・・・。」
「畳の敷きようによっては、そのペケ印、つまりは十字となる境目が出来るだろ?
ほら、トランプを4枚こういう風に並べると、その真ん中が十字になるだろ?
それと一緒だ。」
祖父は、掌をトランプに例えてその置き方を示してくる。
「ああ、それだと分かる。確かに、ペケ印になってるし・・・。」
哲司は、祖父のそうした話し方が好きだ。分かりやすい。
「昔の人も、哲司と一緒で、そのバツ印が嫌いだったんだ。
戦に負けるっていう意味があったからな・・・。」
「へぇ~、そ、そうだったんだぁ~・・・。」
哲司は感心する。
哲司が「ペケ印」が嫌いなのはまた別の理由なのだが、昔の人も同じものが嫌いだったと聞くと、どうしてか親近感が沸く。
「で、今ここにある畳を見てみろ? 今言った、トランプ4枚のような並べ方にはなってないだろ?」
「あああ・・・、そ、そうだね・・・。」
哲司は、部屋の中をぐるりと見渡すようにしてから、そう答える。
確かに、そんな並べ方にはなっていない。
「六畳間なんだから、畳は6枚。それを普通に並べようとすると、上に3枚下に3枚、同じ向きに並べれば、それが一番簡単で綺麗なんだ。
な、そうだろ?」
祖父が、また掌を使って、畳の並べ方を説明してくる。
「う、うん・・・、そうだね。」
「でもな、それだと、2箇所の十字ができるんだ。
つまりは、嫌いなバツ印がふたつも部屋の中に描かれることになる。」
「あああ・・・、なるほど・・・。」
「で、考え出されたのが、この敷き方なんだ。つまりは、決してバツ印を作らない並べ方ってことだ。
だからな、この並べ方を“祝儀敷き”って言うんだ。
つまりは、縁起の良い敷き方ってことだ。」
祖父は、足元を指差してそう言ってくる。
(つづく)