第9章 あっと言う間のバケーション(その49)
「ああ、そうだ。畳だ。」
祖父は、それ以上は説明をしてこない。
「んん? どうして畳なんかを?」
哲司は納得できない。
それでも、祖父の顔を見ていると、やはり1度は行ってみないと・・・と思う。
「じゃ、じゃあ、これは、このままでも良い?」
哲司はテーブルの上に置いた新聞紙を指差して訊く。
「ああ・・・、そのままにしておいてやるから、行って来い。
で、畳がどんな風に並べられているかをよ~く観察して来るんだぞ。」
「う、うん、分かった・・・。」
哲司は、そう言ったかと思うと、手にしていた新聞紙を椅子の上に置いて、縁側に面した六畳間に急ぐ。
そう、昨夜から、哲司が寝ることとなった部屋である。
それまでは、母親と一緒に玄関脇の客間のようなところで寝ていた。
「う~んと・・・。」
哲司はその六畳間の入り口に立つ。
部屋と言っても、今は何の仕切りも無い。
風が通るようにと、襖も障子戸もすべて取り払われていたからだ。
「ああ・・・、へぇ~、こうなってたんだぁ~・・・。」
哲司は、生まれて初めて畳の並べ方を意識する。
家にも和室があるが、その畳がどのように並べられていたかなんて覚えてはいない。
第一、そんなこと、考えたこともなかった。
六畳間と言われるのだから、当然の如くに畳は6枚ある。
その6枚、一定の方向を向いているのかと思ったのだが、全然違った。
縦に並んでいるものもあれば、横に並んでいるものもある。
つまりは、その向きはバラバラなのだ。
それが組み合わされて、ひとつの部屋の床に敷かれている。
まずは、一番手前の畳。これは、哲司から見て、横になっていた。
そして、その奥には、今度は縦に2枚の畳が並んでいる。
さらに奥の1枚は、一番手前の畳と同じ横向きになっていた。
これで4枚である。
で、残りの2枚は、哲司の右手、つまりは一番手前の畳の右側に縦に並んでいた。
「ど、どうして、こんな並べ方なの?」
哲司は呟くように言う。そう言うことで、その畳の並べ方を頭に記憶しようとする。
「どうだ? 哲司からすれば、何ともへんてこりんな並べ方だろ?」
哲司の頭の上から祖父の声がした。
「ああ・・・、う、うん・・・。でも、どうして、こんな並べ方になってるの?」
哲司は、自分の感想を正直に言う。
もっと、綺麗な並べ方になっていても良いような気がしたからだ。
「この並べ方には、昔の人の知恵が詰まってるんだ。」
祖父は、哲司の身体を押すようにして、その六畳間の中央のところまで行く。
(つづく)