第9章 あっと言う間のバケーション(その46)
「ええっとね・・・。」
哲司はバラバラにした新聞紙の枚数を目で数える。
「4枚だよ。」
哲司も、この答えには自信があった。当然なのだが・・・。
「そうか、4枚か・・・。じゃあな、その4枚を食卓テーブルの上に一杯に拡げてくれ。
で、それぞれを少しずつ重ねるようにするんだぞ。」
祖父が台所から言ってくる。
「ん? 重ねるって?」
「新聞紙の隙間から油がテーブルの上に流れないようにするためにだ。
爺ちゃんが言ってること、分かるか?」
「う、うん・・・、何となく・・・。」
哲司は特に意識せずにそう答えた。
はっきり言えば、良くは分っていない。
だから、哲司には明確なイメージはなかった。
それでも、ともかくはそう答える。いつもの癖だ。
「哲司! そ、それが駄目だって言うんだ・・・。」
祖父が一段と大きな声で言ってくる。こっちを向いてだ。
「ん? な、何が? ど、どうして?」
哲司は、何のことを言われているのか分っていない。
「ちゃんと理解できていないのに、“分かった”って言う・・・。」
「・・・・・・。」
「それが哲司の悪いところだ。分からないってことを大切にしない。」
「ん?」
「良いか・・・。」
とうとう祖父は哲司の傍までやってくる。
このままではいけないと思ったようだった。
「少しだけ重ねるってのは、こういう風にするってことだ・・・。」
祖父は、そう言ったかと思うと、哲司が取り分けていた新聞紙を手にして、それをテーブルの上で拡げてみせる。
「よく見ろよ。ここが大切なんだ。」
祖父は、新聞紙と新聞紙の境目を指差して言う。
「ああ・・・、よ、よく分かった。」
哲司は、祖父の指先をじっと見ていて言う。
「な、分っていなかったろ?」
「う、うん・・・。」
「分からないってことは、何も恥ずかしいことじゃあない。何度もそう言ったろ?」
「う、うん・・・。」
「分からない、あるいは分かってない。そうした事実を大切にするんだ。
分かってない、分からないことは、誰かにちゃんと教えてもらう。
そうすることが、何事にも大切なんだ。もちろん、勉強もな。」
祖父は、そう言ってから、改めて哲司の頭にそっと手を置いた。
(つづく)