第9章 あっと言う間のバケーション(その44)
哲司は居間に行って、新聞が積み重ねてある小さ目の段ボール箱の傍まで行く。
そして、その一番上の新聞を手にする。
「ん? これ、朝刊だ・・・。って、ことは・・・。」
そう呟くように言いながら、次の新聞を手にする。
「ああ、これだ・・・。」
そう、祖父が「昨日の夕刊で良い」と言っていたからだ。
どうして朝刊では駄目なのかは分からないが、言われたことに忠実になろうと思っている。
日付まで確認してから、それを持ってまた台所の祖父のもとへと急ぎ足で戻る。
「持って来たよ。」
「ご苦労さん。そしたらな、そっちのテーブルの上に、その新聞紙を拡げてくれ。
何枚かある筈だから、それを適当にずらせて、テーブル一杯に拡げるんだ。」
「ん? テーブル一杯に?」
「ああ、そうだ。テーブルが油で汚れないようにするんだからな。
こっちで揚げても良いんだが、それじゃあ、哲司が揚げられんだろ?」
「ええっ! ぼ、僕が?」
哲司は、祖父が言っている意味がもうひとつ理解できない。
「自分で揚げて、それを食べるってことだ。」
「ええっ! ぼ、僕にも出来る?」
「ああ、出来るさ・・・。」
「で、でも、やったことないよ?」
「何でもそうだろ? 初めてやる日があって、それができるようになるんだからな。
具体的に、どうするかは、その時に教える。」
「う、うん・・・、分かった・・・。」
哲司は、そう言いつつも、言い知れぬ不安と、その一方でワクワクするような期待感を覚えた。
「じゃあ、新聞紙、拡げてきてくれ。」
「う、うん・・・。」
哲司は、たった今居間から持って来た新聞紙を手にしたままで、食卓の所へと行く。
「ええっと・・・。」
哲司は、食卓の前に立って考える。
どうしたら、綺麗に拡げられるのかをだ。
「哲司!」
祖父が台所からそう声を掛けてくる。
「ん? な、何?」
哲司は、内心、「それどころじゃあないんだから・・・」と思う。
今は、他の用事を言い付けないで欲しいとだ。
「まずは新聞紙1枚ずつバラバラにしてみろ。そうすれば、その大きさがよく分かるからな。」
「んんん? バラバラにって・・・。」
そうは言ったものの、哲司は、結局は祖父のアドバイスに従っている。
新聞を1枚ずつ剥ぎ取るようにしていく。
(つづく)