第9章 あっと言う間のバケーション(その43)
「う、う~ん・・・。」
哲司は唸るしかない。
最後に、「勉強もな」と付け加えられたから、余計にである。
「爺ちゃんも、昨日までは自分のためだけにご飯を作ってきたが、今日からは、そこに哲司のためにってのが加わったんだ。
だから、楽しくて仕方が無いんだ。」
祖父は、大き目の皿のように平べったいザルを取り出してきて、そこに切った野菜を並べながら言ってくる。
「ん? た、楽しい?」
哲司はそう言う祖父の感覚がもうひとつ理解できない。
「ああ、そうだ。楽しい。哲司もそう思ってるんだろ?」
「う、う~ん・・・、どうかな?」
「だったら、居間で、テレビでも見てるか?」
「テレビ? ううん、見ない。」
「どうしてだ? 家じゃあテレビばっかり見てるって・・・、お母さん、こぼしてたぞ。」
「ええっ! ほ、ほんと?」
哲司は、まさか、そんなことまで母親が言っているとは思っていなかった。
「困ったもんだって・・・。」
祖父は、笑いながら言う。
「う~ん・・・。」
これまた、哲司には言葉が無い。それが事実だからだ。
だが、だからと言って、ここでもテレビを見たいと思っているかと問われれば、決してそうではないのだ。
その理由は自分でも分からない。
「でも、そうする哲司の気持も分からんではない。」
「ん?」
哲司は驚いた。まさか、祖父か「分かる」と言ってくれるとは思っていなかったからだ。
「ま、哲司がやりたいと思うように持って行ってないからな。
だから、何もしない。で、その結果としてテレビの前に行く。
そう言うことなんだろ?」
「・・・・・・。」
哲司は答えられない。
そう言われることが信じられないからでもある。
「じゃあな、哲司、居間に行って、新聞紙を持ってきてくれ。昨日の夕刊で良い。」
何を思ったのか、祖父がそう言い出す。
「えっ! 新聞?」
「ああ・・・、居間に積んであるだろ?」
「う、うん・・・、それは知ってるけど・・・、ど、どうして?」
哲司は、どうして今、新聞紙が必要なのかと思ってしまう。
「後で分かる。良いから、取って来てくれ。」
「う、うん、分かった・・・。」
哲司は、居間に向かって急ぎ足で行く。
(つづく)