第9章 あっと言う間のバケーション(その42)
「確かに、さっきも言ったとおり、基本的には“男がやるべき仕事”と“女がやるべき仕事”ってのはそれなりに分かれているものだと思う。
消防士や警察官、大工に土木作業員・・・、そうしたものはその仕事の内容からしてやっぱり男の仕事だろうし、看護婦や助産婦、バスガイドに幼稚園の先生なんかは、どう言ったって、やっぱり女の仕事だろ?」
祖父は、ひとつひとつ、哲司に問いかけるようにして言ってくる。
「う、うん・・・、そ、そうだね・・・。」
哲司もそれには異論は無い。
「でもな、それは、職業としての仕事の場合だ。」
「んんん?」
哲司は、どこか話の方向が違うような気がした。
「だから、言ったろうが・・・。」
祖父は、哲司のそうした反応を見てなのだろう。改めて噛み砕くように言ってくる。
「仕事って言うのは、誰かのために仕えるってことだって・・・。」
「う、うん・・・。」
「つまりは、自分が持っている能力を、その誰かのために使うことなんだ。」
「う、うん・・・。」
哲司も、ここまでは理解しているつもりだった。
「でもな、学校や家庭の中では、まずは自分の事は自分でする。
それが仕事の基本なんだ。」
「仕事の基本?」
「ああ、そうだ。仕事の一番最初は、まずは自分自身にしっかりと仕えることだ。」
「自分に仕える?」
「それも出来ないのに、つまりは、自分自身を満足させられないのに、他人様に仕えるなんてのは土台無理があるだろ?」
「・・・・・・。」
「爺ちゃんも、婆ちゃんが元気な間は、婆ちゃんに仕えてもらっていたんだな。
で、ついつい、婆ちゃんに甘えていた。
でも、婆ちゃんが病気になってからは、婆ちゃんにも仕えなきゃいけないし、爺ちゃん自身にもちゃんと仕えなきゃって気が付いたんだ。
だから、ご飯作りも、掃除や洗濯も、それは自分に仕えるんだって気持で覚えたんだ。」
「・・・・・・。」
「だからな、哲司が言った、学校での掃除当番や給食当番ってのは、誰か他人のためにやるものではないんだ。哲司自身のためにやるんだってことを理解しなくっちゃいかんだろうな。」
「お、男でも?」
哲司は、まだその点に拘りがある。
「そうだ。自分自身のためにやることなんだからな。そこには、男も女も無い。」
「・・・・・・。」
「ご飯を作る、掃除をする、洗濯をする。
それも、自分のため、自分に仕えてるんだと思えば、何でも懸命にやれるもんだ。
おっと・・・、勉強もな・・・。」
祖父は、最後にそう言い放った。
(つづく)