第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その43)
「はい。でも、賛成しているというのでもないんです。あの子の父親は。」
マスターは、何故かそのような中途半端な言い方をした。
「それはどういうことです?」
哲司は、そうした大人がよく使う表現に苛立ちを覚える。
「実は、父親は代々のカトリックでしてね。・・・・・・」
マスターが、そこまで言ってまた珈琲を口に運んだ。
そして一口飲むまでの間、ただ黙っている時間を作る。
「カトリックがどうしたと?・・・・それと、これと・・・どう?」
哲司はますます苛立ってくる。
「ご承知ではありませんでしたか。
カトリックは堕胎は罪だと教えているのだそうです。
それで、出産を許すというより、堕胎は認めない、っていう立場なんです。
つまり、出来たのだから、仕方がないって・・・。」
マスターは父親が積極的に賛成しているのではないことを強調した。
「へぇ、それは知りませんでした。そうなんですか。」
哲司は、そうした宗教上のことについては殆ど知識はなかった。
「だからなのです。
どうしてでも、どんな手段を使ってでも相手の男を特定して、その男に養育などの責任を取らせたいと躍起になっているんです。」
マスターは、少し皮肉を込めた言い方をする。
「なるほどね、それで、僕の名前が出たことで、探偵を使ってまで調べられたんですか?」
哲司は、そこに自分が調べられた背景があるのかと思いなおした。
「まあ、それもひとつにはありますが・・・。
それはさておき、私は、そうした彼の考え方、やり方が許せないのです。
堕胎を認めないのが、本当の意味で奈菜のことを思ってなら良いのですが、けっしてそうではない。
そうでしょう?
今回の場合、奈菜は相手の男をまったく知らないのです。
つまり、愛とか恋とかの感情もまったく持ちようがないんです。
それなのに、そうした男との間に出来た子供を、ただ宗教的な倫理観だけでこの世に送り出すっていうのが、私にはどうしても納得できないのです。」
マスターの顔が少し赤らんでくる。
そこに、強い怒り、憤りを感じる。
「でも、奈菜ちゃん本人が産みたいと言っているのは、そうしたお父さんの言っていることが理由ではないのでしょう?
少なくとも、僕は、あれは奈菜ちゃん本人がそのように思っているのだと感じますけれど。」
哲司は、素直に思っていることを言った。
(つづく)