第9章 あっと言う間のバケーション(その37)
「そ、そんなこと・・・、思ってないよ・・・。」
哲司はそう申し開きをする。
幾らなんでも、祖父の竹細工を学校に持って行くなんてことはできない。
そうすれば、「どこで買ってきた?」と皆から言われるに決まっているからだ。
「そ、そうか・・・。だったら良いんだが・・・。」
祖父は、言い過ぎたと思ったのか、少し苦笑いをした。
「哲司、その下を開けてみてくれ。」
野菜を切りながら、祖父が言ってくる。
「ん? ここ?」
「ああ、そうだ。」
「開けたよ。」
「プラスチックのボールが入ってるだろ?」
「ん?」
哲司は、小さいときに買ってもらった幼児用の野球のボールを思い浮かべた。
そんなものがそこに入っている筈もないのだが・・・。
「そう、その右側の・・・。」
「こ、これ?」
「ああ、それだ。」
「こ、これもボールって言うの?」
「あははは・・・、そうだ。」
祖父は、哲司が何と勘違いをしていたのかが分かったようだった。
笑いながら頷いてくる。
「それとな。」
「う、うん・・・。」
言われたボールを取り出して哲司が立ち上がる。
「あそこの戸棚の下に天麩羅粉が入っているから、それを取ってきてくれ。
封が空いているから、溢さないように注意しろよ。」
「う、うん、分かった。」
哲司も、天麩羅粉は知っていた。
戸棚の下を開けると、いろんなものが入っていた。
砂糖に塩、味噌に醤油、ソース、小麦粉・・・などだ。
どうしてか、スーパーで売っている餅もあった。
いずれもが綺麗に整頓されて入っていた。
家の棚より綺麗だ。もちろん、その量も少ないのだが・・・。
「ええっと・・・。」
哲司は目で天麩羅粉を探す。
「左の方に、輪ゴムで止めた袋があるだろ?」
祖父がそう言ってくる。見もしないのにだ。
「ああ・・・、こ、これかな?」
哲司は、「輪ゴムで・・・」とのヒントで、ひとつの袋に手をやる。
そして、それをそっと取り出す。
溢さないようにと言われていたからだ。
(つづく)