表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
847/958

第9章 あっと言う間のバケーション(その36)

「・・・・・・。」

哲司は言葉が見つからない。


確かに、祖父が言うのが正論なのだろう。それは分かる。

それでもだ。哲司が自分ひとりじゃあ、とても宿題の全部をするってことは出来ないのもこれまた事実だ。


「テストじゃあ点数が取れないんだから、せめて宿題ぐらいは何とか全部やらないと・・・。」

そうした母親の意見に従う形で、結果として「じゃあ、手伝って・・・」となる。

それが今までのパターンである。



「哲司は、最初から“とても出来そうにない”って思ってないか?」

祖父は、洗った野菜を庖丁で切りながら言ってくる。


「う、う~ん・・・。」

本音は、「そうだね」である。

それでも、祖父の前でそれは言えない。


「哲司が、爺ちゃんが竹細工を作っているのを見て、宿題の工作で作りたいからと言ってきたときから、そんな感じがしてたんだ。

あわよくば、爺ちゃんが作った竹細工をひとつ貰えないだろうか、ってな。」

「そ、そんなこと・・・。」

哲司が抵抗する。そこまでは思ってはいなかったからだ。


確かに、祖父に手伝ってもらえれば竹細工が作れるだろう、とは思った。

だからこそ、ここに残る決心をしたのだ。

その他の宿題は、殆ど母親の協力が得られる。

国語、算数、理科、社会・・・。

だが、毎年、「これだけは自分で何とかしなさいよ、お母さんは作れないから・・・」と言われるのが工作だった。

女子は、裁縫でアップリケや簡単な刺繍などを作る子が多いが、さすがに哲司は男の子である。そんなマネは出来ない。

「哲司が女の子だったら良かったのにね」と母親は苦笑する。


そうした悩みが解消されるのだ。ここで、竹細工が作れれば・・・。

それが、哲司の本音だった。


「それが分かったから、爺ちゃん、じゃあここに残るかと訊いたんだ。

お母さんが傍にいると、きっと、哲司は甘えてしまうだろうって・・・。」

「・・・・・・。」

哲司は、そうかもしれないと思った。


「で、安易な考え方で竹細工を作りたいと言ったのであれば、きっと“じゃあ、やめとく”って言うんじゃないかって思ったからな。」

「た、試したの?」

哲司はそうなのだろうと思いつつも訊く。


「ああ・・・、試したさ。あわよくば、爺ちゃんの竹細工をひとつ貰えればって考えてたとしたら、そうは行かないからな。

爺ちゃんが作る竹細工は、そんな安物じゃあないからな・・・。」

祖父は、そう言って、まな板の上で人参をぐさりと切った。



(つづく)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ