第9章 あっと言う間のバケーション(その35)
「う、うん・・・。」
哲司も頷く。こう理詰めで言われては、逃げる隙間もない。
「それを、お母さんに手伝って貰った・・・。
それって、恥ずかしいことじゃないのか?
爺ちゃんだったら、恥ずかしいと思うな。」
「・・・・・・。」
「お母さんもお母さんだ。甘やかすにも程がある。親として失格だな。」
祖父は、さすがにこの部分だけは哲司の眼を見ては言わなかった。
顔を上げて、どこか遠いところを見ている。
「お、お母さんは、悪くない・・・。」
哲司は、胸にあった思いを口にした。
自分が叱られるのは構わないが、それが元で母親が悪く言われるのは辛かった。
手伝ってもらえて、助かったし、嬉しかったからでもある。
「じゃあ、誰が悪いんだ?」
「う、う~ん・・・、やっぱり・・・、僕?」
哲司は、気持のどこかにある「誰も悪くはない」という言葉を押さえ込んだ。
もし、それを言えば、より一層祖父が母親のことを悪く言いそうに思えたからだ。
それでも、最後には疑問符を付ける。
「そ、そうか・・・。そう思うのか・・・。
だったら、どうして手伝って貰ったりしたんだ?
それは、良くないことだと思ってたんだろ?」
「“ど、どうして?”」
そう問われても、哲司には答えられるだけの心の整理が付いてはいなかった。
やはり、「誰も悪くはない」という言葉が頭の中を駆け巡っている。
「勉強をするってことは、小学生の哲司にとったら、それは仕事だ。
で、仕事っていうのは、特定の誰かに仕えることだって言ったよな?」
祖父は、また改めてそう言ってくる。
「う、うん・・・。」
哲司も、その部分は否定できない。なるほどと理解をしたつもりだった。
「勉強ってのは、誰のためにするんでもない。自分自身のためだろ?」
「う、うん・・・。」
「て、ことは、勉強をするっていう仕事は、自分自身に仕えることなんだぞ。
そうだろ?」
「う、うん・・・、そうだね・・・。」
「だったら、人に任せちゃあ駄目だ。
そりゃあ、自分だけでは出来ないことがあるってのはよく分かる。
竹笛を作るのと同じだ。
だから、爺ちゃんは、哲司にその作り方は教える。そう言ったろ?」
「う、うん・・・。」
「でも、手は出さない。そうも言ったよな?」
「う、うん・・・。」
「勉強や宿題も同じなんだ。そのやり方は教えはしても、手は出さない。
それが、周囲にいる大人たちのすべきことなんだ。」
祖父は、またまた、哲司の眼から視線を逸らした。
(つづく)