第9章 あっと言う間のバケーション(その34)
「ゴクリ・・・。」
哲司の喉が鳴った。
待っているのに、祖父がその先にある答えをなかなか言わないからだ。
「う~んと・・・。じゃあな、哲司は、実際のところ、どうしてきたんだ? 今までは。」
一呼吸どころか、3呼吸も4呼吸も空いてから、祖父が逆に質問してくる。
言う筈だった答えを言わないままでだ。
「ええっ・・・。」
哲司はうろたえる。
「夏休みの宿題って、何も今年が初めてじゃあないだろ? 去年も一昨年もあった筈だ。」
「そ、それは・・・、そうだけれど・・・。」
「それとも何か? 去年までは、すいすいと出来たってか?」
「・・・・・・。」
哲司は黙って首を大きく横に振る。何度もだ。
「じゃあ、どうしてきたんだ?」
祖父は、どうしてもそれを言わせたいらしい。
もう、完全に手を止めて、じっと哲司の顔を見て言ってくる。
「う~ん・・・、お母さんに・・・。」
哲司の声が小さくなる。
「ん? お母さん? お母さんがどうした?」
分かっているだろうに、祖父は、その先を哲司に言わせようとする。
「お母さんに、手伝ってもらって・・・。」
「ほう、手伝ってもらって・・・か・・・。 で、どうだった?」
「ん? どうだったって?」
「良かったと思ったのか?」
「う・・・、うん・・・。」
「恥ずかしいとは思わなかった?」
祖父は、はっきりと疑問符を付けて訊いてくる。
「・・・・・・。」
哲司は、肯定も否定も出来なかった。
「良いか? これは勉強だけに限らん話だが、“手伝ってもらう”って言うのは、あくまでも主体は自分自身でなくっちゃ話にならん。
だから、今日午前中に哲司にやってもらったあの竹を洗う作業ってのは、哲司の仕事だと言った筈だ。
それは、哲司が竹笛を作るための作業だったからだ。
何も、爺ちゃんがやって欲しくって頼んだものじゃあない。
つまり、あの作業は、決して“お手伝い”何かじゃあない。
それと一緒で、宿題は、哲司に出されたものだし、当然に、哲司が自分でやるべきことだ。
そのことは分かるな?」
祖父は、ここで一旦確認をしてくる。
(つづく)