第9章 あっと言う間のバケーション(その32)
「ああ、そうだ。」
祖父は、哲司が喜びそうな言葉を再度肯定してくる。
「ただし・・・だ。」
「ん?」
哲司が問う。
「本当に出来ないことだけだ。」
「本当にって?」
哲司は、言われている意味がもうひとつ分からない。
「例えば、工作だ。哲司は、何を作ろうかと考えていたんだろ?」
「う、うん。」
「で、たまたまこの家に来て、爺ちゃんが竹細工を作っているのを見て思いついた。」
「う、うん・・・。」
「今も言ったとおり、竹笛の作り方は教えてやる。それは約束したんだしな。」
「うん・・・。」
「でもな、実際に作るのは哲司だ。爺ちゃんは手を出さんし、手伝いもしない。」
「う、う~ん・・・、わ、分かった・・・。」
改めてそう言われると、不安になってくる哲司である。
その点、やはり気が小さいのかもしれない。
「それと同じなんだ。算数にしろ、国語にしろだ。」
「・・・・・・。」
哲司は頭が痛くなる。
今まで、夏休みとか冬休みの宿題を、母親の手助けなしでやれたためしがない。
だから、気持のどこかに、「またSOSを出せば・・・」という思いがあるのは事実だった。
今回の夏休みでもそうだが、前半は、と言うより、最後の1週間ぐらいになるまでは、殆ど宿題に手がつけられない。
やる気持はあるのだが、いざ机に向かうと、その気持が一気に萎える。
それで、そのまま遊びに出る。
つまりは、完全な敵前逃亡である。
それが連日のように続く。そして、カレンダーの日だけが進んでいく。
哲司がいないときに、どうやら母親は哲司の宿題の内容とその進捗度をチェックしていたらしい。
で、お盆を過ぎると、ほぼ毎日のように「宿題は?」と言うようになる。
そのうちに、哲司の机の傍から離れなくなる。
挙句の果てには、答えを横から言うようになる。
その繰り返しだった。
「宿題は結果じゃあない。出来たか、出来なかったか、ではなく、やったか、やっていないか、それだけなんだ。
誰かに手伝ってもらって出来たとしても、それは哲司がやったのではない。
それでは、宿題の意味がなくなる。
やったけれど、出来なかった。それは認められる。」
祖父は、ひとつひとつ、それこそ噛み砕くように言ってくる。
(つづく)
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