第9章 あっと言う間のバケーション(その31)
「ぼ、僕の脳味噌も、そう言ってるのかなぁ?」
哲司は自分に向けてそう問う。
そんな気もするし、そうでないような気もするからだ。
「だから、先生が、その脳味噌の代弁者になってくれてるんだ。」
祖父は水道の蛇口を捻って、洗い桶に水を溜めながら言う。
「えっ! ダイベンシャって?」
「哲司が聞いてくれないから、先生が脳味噌の代わりに言ってくれてるんだ。
今日習ったことをもう少し頭に押し込むようにってな・・・。」
「そ、それが、宿題ってこと?」
哲司は、きっと祖父はそう言いたいのだろうと思った。
「おお、そのとおりだ。よく分かってるじゃないか・・・。
だから、宿題はカップラーメンと一緒で、哲司の身体が欲しがっているんだ。
少々不味くっても、我慢して食うことが大切なんだ。
するとな、口に入れてしばらく噛んでいると、その宿題という不味いものが美味しく感じられるようになるんだ。」
「う、うっそう~!」
「い、いや、ほんとだ。
肉でも野菜でもそうだろ? 1回か2回噛んだだけで飲み込んでしまえば、美味いも不味いも分からんだろ?
しっかり噛む、しっかり噛み砕くことで、美味しさも分かるし、第一お腹に優しくなるだろう。消化が良くなるんだからな。」
「う、う~ん・・・。」
「そうした食べ物と一緒で、勉強ってのも、好き嫌いをしないでまずは何でも食べてみることだ。
そして、しっかりと口を、いや勉強の場合は頭をだが、それを動かすことで噛み砕くことが出来る。
そうすれば、どんどん入るようになる。」
「・・・・・・。」
「だからな、宿題は、その第一歩だ。
3度の食事を補うのがおやつでありカップラーメンであるならば、宿題は、学校での勉強を補う貴重なものなんだ。
嫌がってたら駄目だ。分かったか?」
「う。う~ん・・・、何となくは・・・。」
哲司は、「うん、分かった」と本当は言いたかった。
それでも、やはりまだそれをやりこなすことへのプレッシャーが重く圧し掛かっていた。
「工作の竹笛は、爺ちゃんが教えてやる。
でも、その他の宿題は、哲司が自分の力でやるんだ。
カップラーメンを食べるときでも、お母さんがいなければ、哲司、自分でお湯を入れるんだろ?
それと同じだ。やろうと思えば、出来る筈だ。」
「で、でも・・・、難しいものもあるんだよ?」
哲司は、下から祖父の顔を見上げるようにして言う。
「出来ないものは出来ないで構わない。それが宿題の本質だからな。」
「ええっ! ほ、ほんと?」
哲司の顔がぱっと明るくなる。
(つづく)