第9章 あっと言う間のバケーション(その30)
「違うのか?」
祖父は、哲司が噴出したこと対して、首を傾げてくる。
「ううん・・、それはそうだけれど・・・。」
哲司は噴出した理由を言えなかった。
「それと同じで、哲司の頭が“お~い! 今日習ったあの勉強、もう少し詰め込んでくれ!”って言ってるんだ。」
「う、うっそ・・・。」
哲司はまた「それはない」と思う。
そんな自覚はまったくない。
「お腹と違って、頭、つまり脳味噌ってのはおしとやかでお上品なんだ。」
「お上品?}
「お腹は、屁の元も作るし、しょっちゅうグゥーって鳴るだろ?
つまりは、がさつで下品なんだ。落ち着きがない。
そのくせ、自己主張だけはしっかりとする。」
「ああ・・・、“何か食わせろ!”って?」
哲司は、先ほどの祖父の口調を真似するように言う。
「そ、そうだ。
その点も、脳味噌ってのは、そんなに自己主張をしないんだ。
それだけ、物静かってことだ。
だから、脳味噌が何かを言っても、人間が気が付かないことが多いんだな。
それで、結果的に無視をすることになる。」
「無視? シカトってこと?」
「あははは・・・、そうだ、シカトと同じだな。」
「・・・・・・。」
哲司は、何と答えて良いか分からない。
「で、哲司も、口うるさいお腹の言うことは聞き届けるが、脳味噌の言うことは聞かない。
いや、聞こえていても、聞こえないフリをしてるのかな?」
「そ、そんなぁ~・・・。」
「だったら、脳味噌が“今日習ったところ、もう少し押し込んでくれ!”って言ってるのが聞こえるだろ?」
「・・・・・・。」
哲司は迷った。
そんなもの、聞こえてはいない。聞こえてはいないのだが・・・。
今の祖父の説明によると、哲司がそれをシカトしているんだと言う。
そう言われると・・・、なのだ。
哲司も、口ではいろんな逃げ口上を言ったりはするが、本当は、心の奥底では、「もっと勉強が出来るようになりたい」とは思っていた。
それが、祖父の言う「脳味噌の自己主張」なのかもしれない。
そう思えてくる。
「哲司の脳味噌も、ぐっとおしとやかで、物静かで、お上品なんだろう。
でもな、そんな脳味噌が言ってくるんだ。
その言葉に、もう少し耳を傾けてやったらどうかな?
爺ちゃんは、そう思う。」
祖父は、ザルに入れた野菜を抱きかかえるようにして洗い場へと向かう。
(つづく)