第9章 あっと言う間のバケーション(その29)
「そ、そんなぁ~・・・。」
哲司は、幾らなんでも「それはない」と思って言う。
「だって、そうだろ?
宿題って、まだ習っていない部分が出されることはないだろ?
つまりは、既に習ったものばかりだってことだ。
そして、その殆どが、昨日とか、今日習った部分が出されてる筈。
違うか?」
祖父は、痛いところを突いて来る。
まさにそのとおりだ。
「そ、それは、そうだけど・・・。」
哲司の声が一段と小さくなる。もう、殆ど呟きに近い。
「3度の食事だけで十分満足できる栄養とエネルギーを得られる子は間食をしない。
その必要がないからな。
だからと言って、爺ちゃんは、哲司がお腹が空いたからってカップラーメンを食べることを駄目だとは言わない。」
「ほ、ほとん?」
哲司は、どうしてかにんまりする。
「ああ・・・、それだけ身体を動かしてお腹を減らしているんだからな。
でもなぁ・・・。」
「ん?」
「カップラーメンばっかリってのは、もうひとつだな。
できれば、果物とかにした方が良いんだが・・・。」
「う、う~ん・・・。」
哲司は、答えようがない。
冬のみかん、あるいはバナナであれば自分でも皮を剥けるが、後の果物はそうは行かない。
やはり、ナイフか庖丁が要る。
母親は、哲司がそうしたものを使うことを許していなかった。
「ま、その話は別にしてもだ・・・。
宿題は、今の哲司のカップラーメンと一緒で、どうしても必要なんだ。
だから、先生が出してくれている。」
祖父は、どうしてもカップラーメンと宿題をくっつけたいらしい。
「食べたくなくっても?」
哲司はそう抵抗を試みる。
カップラーメンは食べたくて食べるのだが、宿題はやりたくないからだ。
「好き嫌いで言えばそうなるだろうな。」
祖父は、にっこりと笑いながら言ってくる。
「好き嫌い?」
「ああ・・・、さっき、哲司も言ったじゃないか。カップラーメンの味ってのは微妙だって・・・。つまりは、そんなに美味しくはないってことだ。」
「・・・・・・。」
「それでも食べるってのは、身体がそう要求してくるからだ。“お~い、何でも良いから入れてくれ!”ってな。」
「くふっ!」
哲司は、祖父の話し方に思わず噴出してしまう。
(つづく)