第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その42)
「僕がどうのこうの言える立場ではないでしょう?」
哲司は自分の立場を強調する。
言い換えれば、俺の関知するところではない、との線引きを明確にしておきたいと思う計算がある。
結果責任だけを持って来られることを警戒した。
「では、もし、奈菜が子供を産むこととなった場合、貴方はどのように?」
マスターは自分の手の内を明かさないまま、まるでジグソーパズルのピースをひとつずつ嵌め込んでくるように訊いてくる。
「それは、僕が逆にお訊きしたいぐらいです。
マスターや奈菜ちゃんのお父さんはどのようにされるおつもりなのですか?」
哲司はパズルのピースを投げ返した気持である。
「・・・・それが・・・・ねぇ。」
マスターはそこまで言って、また珈琲を口に運んだ。
珈琲を飲みたいからと言うのではなく、話さないでいられる状況を、そうすることで自らが作り出した“間”のようなものだ。
「あの子の父親と私では意見が違うのですな。」
まるで他人事のようにマスターは言う。
「じゃあ、お父さんは産ませないと?」
哲司は常識的な線として、父親は反対するだろうし、許さないだろうと考える。
「いえ。」
マスターが即座にそれを否定するように言う。
「えっ!・・・・では、マスターが反対されている?・・・どうして?」
哲司は思わずその理由を訊く。
予想が見事にひっくり返ったこともあるが、これだけ奈菜のことを可愛く思っている祖父が奈菜の意見を擁護しないということに、正直言って驚きがあった。
「そりゃあ、あの子の将来を思うからですよ。」
「でも、奈菜ちゃんは、産みたいと言っているんでしょう?」
「はい、それはそのように聞いてはおりますが、何しろ、まだ高校生ですよ。これから選択肢は幾つもある。それをこの時点から、自ら狭める必要はないと思うんです。」
「う〜ん、僕には、よくわかりませんね。」
哲司がこう言ったのは、父親の立場とこのマスター、つまり奈菜の祖父の言い分が、まるでその立場を逆転させて言っているように感じたからである。
「普通ならば、逆でしょう?
父親が絶対に反対する。それが常識だと思ったんですが、そうではないと。」
(つづく)