第9章 あっと言う間のバケーション(その28)
「う、うん・・・。」
哲司の声が次第に小さくなっていく。
「だ、だろ?」
祖父は、突然に口調を変えるように言って来る。
そして、チラッと哲司の顔を見てくる。
「んんん?」
哲司は、「だろ?」の意味が分からない。
その前段に何かがある筈なのだが・・・。
「哲司は、朝・昼・晩の3食、ちゃんと食べさせてもらってるんだろ?」
「う、うん・・・。」
「それなのにだ、それで足りなければ、そうして自分でお湯を入れてでもカップラーメンを食べてる。
そういうことだよな?」
祖父は、ひとつひとつ確認するかのように言って来る。
「う・・・、うん・・・。」
哲司は、そう答えながらも、この話はどこに行くのだろうか? と思う。
「おやつってのも食べてるんだろ?」
「う、うん・・・。毎日じゃあないけど・・・。」
「それでも、カップラーメンを食べるか・・・。」
「だ、だって・・・、外で思いっきし遊んだら、お腹ペコペコになるんだもの・・・。
仕方ないでしょう? 死にそうになるんだよ?」
哲司は、「そうか、それは致し方ないなあ」という祖父の言葉が欲しくなる。
「そのカップラーメンと同じなんだ。」
祖父は、断言するような口調で言う。
「な、何が? 何が、カップラーメンと一緒なの?」
「宿題だ・・・。」
「ええっっっ! しゅ、宿題!?」
哲司の頭は真っ白である。
「哲司も言ったように、そのカップラーメンも、そんなに美味い物じゃあないんだろ?
それでも、それを食べてしまう。
それは、お腹が空いているからだ・・・。
そういうことなんだろう?」
「う、うん・・・。」
「て、ことは、やっぱり宿題と同じなんだ。」
「ど、どうして?」
「学校じゃあ、決められた時間に決められたようにしか勉強を教えられない。
つまりは、食事に例えて言うならば、学校の勉強は朝・昼・晩の決められた3食だ。
でも、それだけじゃあ足りない子が大勢いるんだな。
だから、先生は、宿題を出してくれているんだ。
哲司が食べているカップラーメンのようにな。
好きな時間に、好きな場所で、自由に勉強が出来るようにって・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、返す言葉がない。
(つづく)