第9章 あっと言う間のバケーション(その27)
「う、うん・・・。」
哲司は少し気が重たくなる。今の話の流れからすると、「そんなもの食べて・・・」と小言を言われそうな気がしたからだ。
「それは、そのまま食べるのか?」
祖父がそう訊いてくる。
(爺ちゃん、カップラーメンって、食べたこと無いんだろうか?)
哲司はそう思った。
それでも、その反面で、(まさか、そんなことはないだろう)とも思ったりする。
「ううん、お湯を入れるんだよ。爺ちゃん、知らないの?」
哲司は慎重に訊く。
祖父のことだ。知っていて、わざと訊いてくることだって十分に考えられる。
「そ、そうか・・・。お湯を入れるのか・・・。」
祖父は、笑いながら言ってくる。
(や、やっぱり、知ってるんだ・・・。)
哲司はそう思った。祖父の何とも言えない笑顔がそれを物語っている。
「じゃあ、そのお湯は誰が入れるんだ?」
「う~ん、お母さんがいるときはお母さんに入れてもらうし、いないときには自分で入れる。」
「ほう、哲司、自分で入れられるのか?」
「う、うん・・・。それぐらいは・・・。」
哲司は、そう言いながらも、次に祖父が何を言って来るのかが不安になる。
真綿でじわじわと首を絞められているような感じさえする。
「そのカップラーメンってのは、毎日食べるのか?」
「う~ん・・・、そ、そうでもないけれど・・・。」
「じゃあ、週に何回ぐらい食べるんだ?」
「う~んと・・・、週に3~4回かなぁ~。」
「じゃあ、2日に1回ぐらいだな?」
「そ、そうだね・・・。」
哲司は、ここまでで目を半分閉じる。
そう、叱られるときの準備だ。
「じゃあ、それって、どんなときに食べるんだ? 毎日とは決まってないんだろ?」
祖父は、土間の籠の中から野菜を取り出しながら訊いてくる。
「う、うん・・・、決まってない・・・。お腹が空いた時かなぁ~。」
哲司は、当たり前のことを答えている。
空腹を感じなければ、わざわざ自分でお湯を入れてまでカップラーメンを食べたりはしない。
「それって、決まったご飯とは別なんだろ? いわゆる“間食”ってなんだろ?」
「う、うん・・・。」
哲司は、いよいよもって追い詰められたような気になる。
「間食」。それって、学校でも「しないように」と教えられていたからだ。
「お腹が空いたから食べる。つまりは、晩御飯まで待てないってことなんだろ?」
祖父は、選び出した野菜をザルに並べるようにして言ってくる。
(つづく)