第9章 あっと言う間のバケーション(その26)
「う、うん・・・。」
哲司は渋々認める。
きっと、母親がそう言ったに違いない。
そうでなければ、祖父がそんなことを知っている筈はない。
「美味いか?」
祖父は、カップラーメンの味を訊いてくる。
「う、う~ん・・・、ビミョウ・・・。」
「微妙? ほう、難しい言葉を知ってるんだ。」
「そ、そうなの? 学校じゃあ、皆、使ってるよ。」
「ほう、そうなのか。で、どんな意味なんだ?」
「ええっ! い、意味って・・・。」
「そうして言葉として使う以上は、その意味も分ってるんだろ?」
「う、う~ん・・・と・・・。」
哲司は、詰まる。そんなこと、考えて使っている訳ではない。
皆がそう言うから、哲司も使っているだけだ。
言わば、流行である。
「まったくの余談だが・・・。」
祖父は、その話題を今ここで言うかどうかを考えたようだった。
「“微妙”って言葉には、それこそ微妙な意味があってな・・・。」
「ん?」
「本来の意味は、ひとつには“何とも言えない美しさや味わいがあること”なんだ。
そして、もうひとつは“一言では言い表せないほど細かくて複雑なこと”でもある。」
「・・・・・・。」
そう言われても、哲司にはもうひとつ正確には理解できそうにない。
「つまりは、決して“否定”じゃあないってことだ。」
「ん? ど、どういうこと?」
哲司は、とうとうギブアップをする。
もう、これ以上は付いていけない。
「今、哲司は、カップラーメンは美味いかと訊かれて、“微妙”って答えた。
つまりは、“それほど美味いとも思わない”、かと言って、“不味いとも言えない”ってことなんだろ?」
「う、うん、そ、そう・・・。」
(さすがは爺ちゃん!)
哲司は、そう思った。
「でもな、今も言ったように、本来の意味には“何とも言えない美しさや味わいがあること”という意味があるから、それをそのまま当て嵌めれば、カップラーメンは何とも言えないほどに美味しいってことにもなるんだ。」
「ええっっっ・・・、そ、そうなの?」
「だから、辞書に載っている本来の意味で解釈をすれば、そうなるってことだ。
つまり、本当の意味をちゃんと理解しないで、皆が言ってるからってそれを真似して使ってるようじゃあ駄目だってことだ・・・。」
「へぇ~・・・、難しいんだぁ・・・。」
哲司は、そう言うしかない。
「ところで、そのカップラーメンなんだが・・・。」
祖父は、話をそこへと戻してくる。
(つづく)