第9章 あっと言う間のバケーション(その22)
「う~ん・・・と・・・。」
祖父は、何を思ったか、突然に足を止めて哲司を振り返ってくる。
後を追っかけていた哲司が、祖父のお尻に顔面をぶち当てる。
祖父が急ブレーキを掛けたものだから、哲司のブレーキが間に合わなかったのだ。
「い、痛てぇ~!」
哲司が思わずおでこに手をやる。
そこが祖父の腰骨にぶつかったからだ。
「おおっ! すまん、すまん・・・。」
祖父は、そう謝りながらも笑っている。
「う~ん・・・、急に止まるんだもの・・・。」
哲司が口を尖がらせる。一応は抗議をする。
「悪いのは僕じゃないからね・・・」とだ。
「すまん。その代りと言っちゃあなんだが、哲司の希望を聞く。」
「ん?」
「晩御飯、ライスカレーと天麩羅と、どっちが良い?」
「ええっっっ!」
哲司は暫し思考が止まる思いだ。
「だから・・・、どっちでも、哲司が食べたい方を作ることにする。
何しろ、今日は、哲司もいろいろと頑張ったしな・・・。」
祖父は、改めてそう説明をしてくる。
「う~~~ん・・・。」
哲司は迷う。
カレーライスと天麩羅。どちらも好きだ。
「て・・・。」
そこまで言って、哲司は息を継ぐ。
「ん? 天麩羅か?」
「てか、どっちもってのは、駄目?」
哲司は、祖父の顔色をそっと窺うようにして言う。
出来れば、その両方を食べたかった。
「あっははは・・・・。」
祖父は、腹を抱えるようにして笑った。
「そ、それは贅沢ってもんだ。それに、食べ物に対しても失礼だぞ。
どちらかひとつにしろ。残りは、明日作ってやるから・・・。」
祖父は、まだ笑いながらも、きちんと言うべきことは言ってくる。
哲司の提案は却下すると。
「じゃ、じゃあ・・・。」
ここまで来ても、哲司はまだ決められない。
そこが、やはり小学3年生の子供である。
どちらかを言えば、後で後悔をしそうな気がするのだ。
「よし、じゃあ、天麩羅だ。ライスカレーは明日の夜までとっておく。」
業を煮やしたのでもないのだろうが、祖父は、結局はそう言って自分が決める。
「ええっっっ、そ、そんなぁ~。」
哲司はそう言ったが、その一方で、祖父に決めてもらって助かったという気持もあった。
何とも不思議な感覚である。
(つづく)