第9章 あっと言う間のバケーション(その21)
「ん?」
哲司は、同じフレーズをどこかで聞いたような気がした。
「だから言ったじゃないか?
命は、親から子へそして孫へと、順繰りに繋いでいくもんだ。
ご先祖様がいなかったら、哲司も、この世には生まれてない。
そういうことだ。」
祖父は、もう何度も説明をしたと言う顔をする
「だ、だから、感謝しないといけないって?」
「当然だろ? 言うなれば、哲司が生まれて今日まで育って来たのは、お父さんとお母さんが、ご先祖様から受け継いだ命を哲司にも引き継いでくれたからだ。
命はリレーと一緒だって言ったろ?
前のランナーから受け取った命と言うバトンを次のランナーにちゃんと渡す。
そうして、今、哲司がそのランナーとして走り出したところだ。
それを次のランナーにちゃんと渡すまでは、哲司の責任なんだ。」
「ぼ、僕の責任?」
「ああ、そうだ。でもな、ランナーはひとりじゃあない。
周囲にいて、応援してくれる友達や仲間がいるだろ?」
「う、うん、そ、そうだね・・・。」
哲司は、学校の運動会の場面を思い浮かべる。
「それと同じで、この爺ちゃんにも、最後までしっかりと走れよって応援してくれる人がいるんだ。
それが、ちょっとだけ先に“あの世”に行った婆ちゃんであり、ご先祖様たちなんだ。
もちろん、それだけじゃあない。
この村の人達もそうだし、駐在さんもそうだし、、犬の丸子ちゃんだってそうだ。
そうして、互いに互いを応援しあうってのが、助け合いなんだ。」
「・・・・・・。」
「もちろん、婆ちゃんやご先祖様は、爺ちゃんのことだけじゃあなくって、哲司のこともちゃんと応援してくれてるんだぞ。」
「ほ、ほんとに?」
「ああ、嘘は言わない。
だからな、そうして応援してくれる婆ちゃんやご先祖様に、“いつも応援してくれてありがとう”って、短い夏休みの期間だけでも感謝してみたらどうかなって・・・。」
「う、うん・・・、よ~く分かった。僕、明日から、心を込めて“いつもありがとう”って言う。」
「よしよし、そのことが分ってくれれば、爺ちゃん、もう言うことは無い。」
祖父は、これ以上はない笑顔で言ってくる。
「よ~し! じゃあ、今から晩御飯のおかず作りだ。
哲司も手伝ってくれ。」
「う、うん。」
祖父は、時計を確認するようにしてから、そう言って立ち上がった。
「今晩のおかずって、な~に?」
哲司は、ワクワクする気持で祖父の後を追う。
(つづく)