第9章 あっと言う間のバケーション(その19)
「ま、何になっても、また、どんな仕事についても構いはしない。
だが、今言ったように、“お金のために働く”っことだけは止めておけよ。
そうした考え方で仕事を選ぶと、すぐに使い物にならなくなる。」
どうにも納得できないような顔をしている哲司を見て、祖父はそうまとめてくる。
「ん? 使い物にならないって?」
哲司も、大体のイメージはあったが、思わずそう訊いてしまう。
「すぐに仕事が嫌になる。覚える前にだ。」
「ど、どうして?」
「だから、言ってるだろ? その仕事がしたいって思っちゃあいないからだ。
お金がもらえるから・・・って考えてるんだからな。
つまりは、その仕事が誰かのために役立つからっていう原点を忘れているんだ。
だから、また次の仕事を探さなくちゃあいけなくなる。」
「う、うん・・・。分かった。」
哲司は、その最後の話だけは何とか飲み込める。
「それこそ、今日言われたじゃないか・・・。」
祖父が思い出したように言う。
「ん?」
「ほら、駐在さんにだ。哲司も警察官にならんかって・・・。」
「あああ・・・。」
「駐在さんの仕事を考えみろ。人に信頼され、頼りにされ、喜ばれているだろ?」
「う、うん・・・。」
哲司にも、それは実感としてあった。
出会った人の誰もがにこやかな顔で話していた。
牛を飼ってる陽子姉ちゃん、お寺の階段下で遊んでいた子供たち。
そして、丸子ちゃんという犬を飼ってるお婆ちゃん・・・。
誰もが、駐在さんには感謝してるようだった。
「ああいうのを、本当の“仕事”って言うんだ。
この村の人達のために働いて、そして感謝をされてる。
爺ちゃんも、どれほど助けてもらったか・・・。」
「そ、そうなの?」
「ああ・・・、公私ともにな。」
「コウシって?」
「警察官としての仕事と、知り合いとしての助け合いの精神ってところかな・・・。
つまりは、警察官としてだけじゃなくって、それ以前の、人間としていろいろと相談に乗ってもらったってことだ・・・。」
「お、お爺ちゃんでも?」
哲司は、少しびっくりする。
イメージとしては、祖父が誰かに相談をするなんてこと、考えられなかったからだ。
それだけ、何でも知っている。
そう思っていたからだ。
「そ、そりゃあ・・・、そうだ。」
祖父は、哲司の思いを汲み取ろうとしたようだった。
少し間を空けて、何かを考えるようにする。
「爺ちゃんだって、何でも知ってて、何でも出来るってものでもない。
それを皆で助け合うってのが大切なことじゃあないのかな?」
祖父は、少し首を傾けるようにして言ってくる。
(つづく)