第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その41)
「先ほど、奈菜が、何か変なことを申し上げませんでしたか?」
マスターは、自分のカップには砂糖を入れないで珈琲を一口飲んでからそう言った。
「変なこと?」
哲司は問い返す。
確かに、先ほど奈菜が「てっちゃんが“うん”と言うのなら・・」という言い方をした。
マスターが言っているその「変なこと」とは、恐らくはそのことを指しているのだろうとは思う。
だが、哲司はそれを自分から切り出そうとは思っていなかった。
奈菜はそれが既に哲司に伝わっているものと思って嬉しそうにした。
いや、少なくとも、哲司にはそう思えた。
だが、結果としては、まだ話されてはいなかった。
それをマスターに確かめてから、奈菜の言葉数が急激に止まった。
哲司は、その辺りのことは意識にあったのだ。
だから、いずれはこのマスターから話してくるだろうと。
「実はですね、奈菜は、お腹の子供をどうしても産みたいと言うのですよ。」
マスターは哲司の反応を探るように、ゆっくりと話し始める。
「ああ・・・。それは、本人からも聞きました。」
哲司もそれに応じる。
「貴方は、どう思われます?」
マスターは自分の考えや、家族の中で検討しているであろう方向性も言わないで、いきなり哲司の気持を訊いてくる。
「どうって、それは、これから奈菜ちゃんと付き合うという前提で?
それとも、一般的な話としてですか?」
哲司は、こうした話の場合、一般論が問われているのでないことぐらいは承知している。
だが、敢えて、その点を事前に明確にしておきたいと思った。
「奈菜とお付合いをしていただくお立場で・・・・。」
マスターの答えも当然のようにそうなってくる。
「・・・・それは、僕から何かを言える問題ではないと思っています。」
哲司は、子供のこれからについては、自分が関わるべきではないと考えていた。
嫌な言い方になるが、奈菜が子供を産むか産まないかは、ある意味では奈菜の勝手。俺には関係ない。という考えがある。
付き合うと言っても、まさか「結婚を前提にした」付き合いだとは思っていない。
ごくごく普通の女友達、彼女、という関係図を描いている。
そうした関係である以上、さらに踏み込んだ「子供をどうする」という話題には関わりたくもなかったのだ。
「では、どちらでも構わないと?」
マスターの声が少し緊張したものとなる。
(つづく)