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第9章 あっと言う間のバケーション(その16)

「う、うん・・・。」

哲司はほっとした気持で言う。

一瞬は“仕事”という漢字が思い描けなかったからだ。

「書いてみろ」と言われていたら、きっと書けなかっただろう。


「この“仕える”って意味は分かるか?」

祖父が、再度“仕事”の“仕”の字を掌に書いて訊く。


「う~ん・・・、家来になるってこと?」

哲司は思いつくままにそう答える。疑問符をつけてだ。

父親が好きなテレビの時代劇で、そんなことを聞いたような気がしたからだ。

もう、それしか思いつかなかった。

まさに、小学校低学年の発想である。

もちろん、正解だとは思っていない。


「あははは・・・、そ、そうか、“家来になる”ってか・・・。」

祖父は面白そうに笑った。


「・・・・・・。」

哲司は黙っている。

別に、祖父を笑わそうと思って言ったことでは決して無い。

それでも、そうして祖父がケラケラ笑うのを見ると、何か特別に面白いことを言ったような錯覚に陥るから不思議なものだ。


「ま、“当たらずも遠からず”ってところかな?」

祖父は、まだこみ上げてくる笑いを必死で堪えるようにしながら言う。


「ほ、ほんと?」

哲司の顔がぱっと明るくなった。

「近い! 惜しい!」と言われたように思えたからだ。


「“仕える”ってのは、特定の誰かの傍にいて、その人のために奉仕する、働くってことだ。

だから、哲司が言った“家来になる”ってのも、決して間違いじゃあない。

どこかの殿様の家来になるってことは、その殿様の傍にいて、その殿様に奉仕する、つまりは殿様のために懸命に働くってことだからな。」

祖父は、そう言いつつも、また思い出したように笑う。

哲司が「家来になること」と答えたことが、余程面白かったようだ。


「う、うん・・・。」

哲司は、まるで正解を言い当てたように嬉しくなる。


その点が、祖父は哲司の両親とは違うのだ。

「それは違う!」と頭ごなしに言わない。つまりは、完全否定が無い。

だからなのだろう。祖父の話だと、多少難しい内容でも聞こうとする姿勢が生まれる。



「“仕事”ってのは、本来、その“仕える”っていう思い、つまりは“特定の誰かのために奉仕する、働く”っていう、要は気持の部分が大切なんだ。

それが、本来の“仕事”ってことだ。

それなのに、今は、もうひとつの意味、“生活の糧=お金”を稼ぐものっていうことばかりが強調されるようになってしまった・・・。」

祖父は、さすがに哲司には難しいことと思ったのか、一段とゆっくりとした口調で話してくる。



(つづく)






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