表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
821/958

第9章 あっと言う間のバケーション(その10)

「ん? ああ・・・、そうか・・・。」

祖父は、何をどう受け止めたのか、そう言いはしたものの、哲司の疑問にすぐに答えてくれる様子は見せない。


「ね、ねぇ~・・・。」

哲司が珍しく食い下がる。どうしても、今の質問に答えが欲しかった。



「哲司は、“あの世”って、信じるか? あると思うか?」

祖父が逆に質問してくる。

お釜からご飯をおひつに移しながらだ。大きなしゃもじを使っている。


「あ、あのよって?」

哲司は、そう問い返す。「あの世」という言葉があるのは知っていた。


「一般的には、死んだ人が行くと言われている世界だ。」

「う~ん・・・。」

哲司は考え込む。

本音を言えば、「分からない」だ。

それでも、そう言ってしまえば、祖父はこの話を続けてくれない。

そんな気がした。だから、中途半端な受け答えとなる。


「爺ちゃんは、あるって思ってるんだ。いや、そう信じてるんだ。

でなければ、婆ちゃんと会えなくなるだろ?」

「ん? お婆ちゃんに会うって?」

哲司は、言われた意味が分からなかった。

祖母は、数年前に死んでいる。


「だって、そうだろ?

いずれ、爺ちゃんも死ぬ。そうしたら、“あの世”に行くんだ。」

「そ、そんなぁ~・・・。」

哲司がそう言う。

“あの世”がどうこうと言うより、祖父が死ぬってことが嫌だった。

そうした思いでの「そんなぁ~」である。


「もしだ、今言ってる“あの世”ってのが無いんだとしたら、爺ちゃん、死んでも婆ちゃんに会えないってことになる。そうだろ?

“あの世”ってところがちゃんとあって、死んだ人が皆そこにいるんだとしたら、爺ちゃん、死んで“あの世”に行ったら、そこで婆ちゃんに会うことが出来るってことだからな。」

「・・・・・・。」

哲司は、何も言えなかった。


「今は、爺ちゃんが“この世”にいて、婆ちゃんが“あの世”にいるから、直接的には顔をあわせたり、手を握り合ったりは出来ん。

それでもな、気持っていうのか、婆ちゃんに対する思いっていうのか、そうしたものはちゃんと伝えられるんだ。」

「ん?」

哲司は、「どんなふうにして?」という言葉を飲み込んだ。


「それが、あのお仏壇なんだ・・・。」

祖父は、そう言って、見えはしないのだが、仏壇が置いてある部屋の方向を細い目で見る。



(つづく)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ