第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その40)
そうした2人を、マスターはカウンターの向こうからじっと見つめていた。
やはり孫娘を心配する祖父の顔である。
奈菜は喫茶店を出るとき、もう一度哲司を振り返った。
哲司もずっと奈菜の姿を目で追っていたから、それに対しては軽く片手を挙げるようにして答えた。
「じゃあ、また。」
哲司は、出て行く奈菜に向ってそう言った。
道を奈菜が渡っていくのが見える。
まっすぐ店長のところへ行って、何事かを話している。
それから、奥の事務所へと姿を消した。
哲司は、改めて、先ほど入れてもらった珈琲を一口飲む。
ようやく、旨い珈琲だと思えるようになっている。
1杯目の珈琲は、その味も香りも記憶に無い。
ただ、話を聞く合間に乾いた喉を潤しただけである。
最近は珈琲を飲むことが少なくなった。
元々は好きなのであるが、金が続かないから喫茶店にも行けやしない。
たまに余程喉が渇いたと感じたときに、自動販売機で買った缶コーヒーを口にするのが関の山だ。
だからなのかもしれない、久しぶりに珈琲を飲んだという感覚になる。
「珈琲、お好きなんでしょう?」
いつの間にか、マスターが傍にやってきていた。
窓から奈菜を見ていたから、そうしたことに気がつかなかった。
マスターは新しい珈琲カップをひとつ持ってきていた。
「座ってもいいですか?」
言葉ではそう訊ねてはいるが、その時には殆ど腰を下ろしている。
一緒に運んできたポットから珈琲を入れる。
どうやらマイカップのようだ。
少し大き目で、店で使っているカップの1.5倍ぐらい入るだろう。
「もう少しだけ、お話させてもらっても構いませんか?
お時間は大丈夫ですか?」
マスターは腕時計を見ながらそう言った。
「はい、僕は構いません。特別な予定もありませんから。」
哲司はそう答えながらも、こういう言い方をされることは、これからまた新たな話が出てくるな、と覚悟をする。
もう、ここまで来たら、何があっても驚きゃしないぞ。
(つづく)