第9章 あっと言う間のバケーション(その7)
祖父の手がお釜の蓋を一気に取った。
と、中からは真っ白な湯気が上がってくる。
哲司が眼鏡を掛けていたとしたら、瞬時に曇ってしまいそうなほどだ。
「わぁ~、こんなに沢山?」
哲司の第一印象はそれだった。
こんなに大量のご飯が入っているとは思っていなかった。
それは、哲司が米を枡で計り、そしてそれを洗うのをその手で手伝っていたからだ。
量の感覚としては、もっと少なかったと思う。
「あはは・・・。米の一粒一粒がひとつずつふっくらと膨らんだから、こんなに多くなるんだ。
これが、炊き上がった6合のご飯だ。」
「す、すごい・・・。ほ、ほんとに、ピカピカ光ってる・・・。」
「だろ? べっぴんさんになってるだろ?」
「・・・・・・。」
哲司は、言葉が出なかった。
自分が関わって炊き上がったご飯だという思いがあったのだろう。
「よしっ! じゃあ、これからおひつに移そう。」
祖父は、そう言ったからと思うと、お釜の両脇についていた輪のようなところを持って、かまどの上から持ち上げる。
そう、すっぽりと嵌まっていたようになっていたからだ。
「爺ちゃんはこのお釜を台所に持っていくから、哲司は、その木箱を元あったところに戻しておいてくれ。」
祖父は、そう言ってそのまま土間から台所へと上がってく。
「う、うん、分かった。」
哲司はそう答える。何となく晴れ晴れとした気分でだ。
哲司が木箱を元に戻してから台所に行くと、祖父がお釜の中に手を入れて動かしている。
「ちゃんと片付けてきたよ。」
哲司がそう報告する。
「おお、ご苦労さん。そうしたらな、そこで手を洗ってから、仏間に行ってお仏飯の器を貰ってきてくれ。」
祖父が手を動かしながら言ってくる。
「ええっ? オブッパンって?」
哲司は、それがどんなものなのかを知らなかった。
「仏壇の前に、小さな優勝カップのような器が供えてある。金色の奴だ。」
「ん?」
そう言われても、哲司にはその物のイメージが沸かなかった。
(つづく)