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第9章 あっと言う間のバケーション(その2)

「どうだ、お釜で炊くと、味が違うだろ?」

祖父は、誇らしげに言ってくる。


「う、うん・・・。で、でも、どうしてなの?」

哲司としては、単純で素朴な疑問である。


美味しいと言っても、ご飯に味付けをしたわけではないのだ。

塩や砂糖、そうしたいわゆる調味料が入っている訳ではない。

量をきっちりと測った米と、その米の量にあわせた水を入れただけである。

それは、ご飯を炊くまでの一連の作業を哲司自らが手伝ったから断言できる。

それなのに、どうして「美味しい」って感じるんだろう。

家で出される電気炊飯器で炊いたご飯とどこが違うのか。


「これが、本当のご飯の炊き方だからだ。」

祖父も、同じようにひと摘みのご飯を口に入れながら答えてくる。


「ほ、本当のって・・・。」

哲司は、「だったら、電気炊飯器で炊くご飯は嘘なのか」などと考えてしまう。

屁理屈にだけは頭が回る。


「何百年もの間、日本人はこうしてご飯を炊いてきたんだからな。」

「そ、それは・・・、わかるけど・・・。」

哲司は小さな声で言う。

できれば、祖父の耳には入らないで欲しい。そう思った。


「それを、電気が通じるようになって、とうとうあの電気釜ってのが出てきた。」

「う、うん・・・。で、でも、それって駄目なこと? どこの家でもガスか電気だよ。」

「べ、別に、駄目だって言ってるんじゃない。爺ちゃんのところでも、昨日までは電気だったしな・・・。」

そうだった。昨日までは哲司の母親を含めて、親戚のおばちゃんたちが食事の世話をしてくれた。

ご飯は、電気炊飯器で炊いていた。


「だ、だったら・・・。」

哲司は、さらに食い下がる。


「だからな、便利さを取るか、美味しさを取るかってことだ・・・。」

「ん?」

「日本人も、とりわけ家庭の主婦が忙しくなってきたんだろうな。

皆が美味しさより便利さを取った。そういうことだ。」

「そ、そうなんだ・・・。」

だからと言って、哲司の「どうしてお釜で炊くとこんなに美味しいのか」という疑問は消えはしない。


「お釜で炊くということは、米がご飯に成長することに付き合ってやるってことなんだ。」

祖父は、哲司の疑問を理解していたようで、さらにそう補足してくる。


「んんん? お米が成長?」

哲司は、その言葉にひっかかる。

米は、育った稲からとるって習った。

つまりは、成長したから米になったんだと思っていた。

それなのに、祖父は「米がご飯に成長する」と言う。

その意味が分からない。



(つづく)




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