第8章 命が宿るプレゼント(その150)
「ああ、そうだ。指を落とさないまでも、大きな怪我することだってあるからな。
だから、必ず、練習というか、使うための訓練ってのは必要なんだ。
哲司に、怪我をさせたままで帰らせるわけには行かんからなぁ~・・・。」
祖父は、そう言って苦笑いをした。
「爺ちゃんは、怪我したことあるの?」
哲司が訊く。
多分、「そんなことはない」と答えるだろうと思ってだ。
「ああ・・・、小さいのはな・・・。何度もやった。
小刀で怪我をすると言うんじゃなくって、その時の竹との相性もあってな。」
「ん? アイショウって?」
「つまりはだ。竹にもいろんな奴がいるってことだ。
思わぬところに節を持ってたり、変にささくれ立ってたりな・・・。」
「・・・・・・。」
「だから、そんな奴と出会ったりすると、思わぬ怪我をすることはある。
もちろん、だから、慎重にすることが重要なんだが・・・。」
「そんなこともあってか、昔から、竹細工は男の仕事だった。」
祖父が哲司の顔をじっと見るようにして言ってくる。
「男の?」
哲司が反復する。
「ああ・・・、だから、娘ばかりだった爺ちゃんの家では、これでこの技を受け継ぐものがいなくなったと思ってた。」
「・・・・・・。」
「そんなところへだ。今回、哲司が法事に駆けつけてくれた。
で、爺ちゃんの竹細工を興味深そうに見てくれていた。」
「・・・・・・。」
「だから、哲司もやってみるか? って訊いたんだ。」
「ああ・・・、それでなの?」
哲司は、そこに宿題の工作のことがあったことも含めている。
「ああ・・・。
本当に竹笛を哲司が作れるようになったら、爺ちゃん、ここまで竹細工を続けてきた甲斐があるってもんだ。」
「・・・・・・。」
「爺ちゃんの命があるうちに、哲司にそれを受け取ってもらえれば・・・。
もう、言うことはない。
そ、そう思ってるんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は、その祖父の言葉に何ひとつ返せなかった。
ただ、これから、懸命に竹笛作りを教えてもらう気にはなった。
(つづく)
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