第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その39)
マスターは、孫娘の奈菜が見の前にいるためか、非常に分かり易く説明をする。
不用意な飾り言葉もなければ、感情的な表現も無い。
哲司に向って言ってはいるが、その実、奈菜にもそのことを認識させようとして選んだ言葉のようだった。
そう言ったことが2人に理解されたかどうかを確かめるつもりもないようで、それだけを言うと、哲司の前から下げた空になった珈琲カップを盆に載せて、カウンターの向こうへと戻っていく。
「僕が聞いていたのは、今、マスターが言ったとおりだよ。それ以外のことは聞いてないんだ。」
哲司は奈菜にそう言った。
もちろん、知らない間に妊娠させられたという経緯についても聞いてはいたが、それを改めてこの奈菜に言う必要はないと思う。
「うん。分った。」
しばらくは黙って俯くようにしていた奈菜だが、何かを思い切ったように顔を上げてから、短くそれだけを口にした。
「だからさ、・・・・・もちろん、奈菜ちゃんの気持も聞かないといけないんだろうけれど、僕は、奈菜ちゃんと付き合いたいと思っている。」
哲司は、先ほど奈菜が言った「伝わっていると思う話」が気にはなるものの、改めてああしてマスターが言うのだから、ここは素直に、自分の気持に正直になって、奈菜とのこれからを考えたいと思う。
その気持を伝えるための言葉である。
「うん、ありがとう。とってもうれしい。
これからも、よろしくお願いします。」
奈菜は、小さな声でそう言って、ぺこりと頭を下げた。
「まだ、バイトの途中だろ?
いくら叔父さんがやっている店だと言っても、やっぱ、他のバイトさんへの示しってこともあるから、もう戻ったほうがいいよ。
デートの誘いは、また僕のほうから連絡するから。」
哲司は、少し大人の態度を示す。
男として、やはりリードしたいという気持がある。
「うん。じゃあ、そうする。
甘えてばっかしじゃ、だめだもんね。」
奈菜はそう言って、席を立った。
その時、一瞬だが、カウンターの向こうにいるマスターの方をちらっと見た。
哲司は店の前まで送るつもりで、同じように席を立つ。
「あっ!・・・ここでいい。てっちゃんは座ってて。・・・・・恥ずかしくなるから。」
奈菜は哲司の意図を感じたようで、そう言って哲司を再度座らせた。
(つづく)