第8章 命が宿るプレゼント(その145)
「えっ! ご、ご飯炊けたの?」
哲司は素っ頓狂な声を上げる。
そして、祖父の後を追いかけるようにして、台所から土間へと降りていく、
見ると、お釜の縁から白い泡のようなふきこぼれた痕が付いていた。
「零れてるの?」
哲司は不安になる。
曲りなりにでも、哲司も手伝ったこのご飯焚きである。
米を計るのもやったし、米を洗うのも手伝った。
そして、火も付けさせてもらった。
そう、初めてのマッチだった。
さらには、薪を何度も運んだのだ。
これだけのことをしたのに、一生懸命にやったのに、お釜が泡を吹いたようになっている。
それが、哲司を不安にさせたのだ。
だが、そうして覗き込んだ祖父の顔は思いっきり笑っていた。
で、哲司もそれに引きずられるようにして笑う。
(どうやらそれでも良いようだ。)
そう思えたからだ。
「そ、そうだ!」
祖父が何かを思い出したような声を上げる。
「ん?」
「哲司、さっきのそれ、蓋を取ってみな。」
祖父はそう言って土間にある例の火消し壷を指差してくる。
「ああ・・・。」
哲司は言われた意味が分って、その傍へと行く。
それでも、すぐにその蓋を取ることができない。
「あ、熱くない?」
哲司は、先ほどこの中に入れたものを思い浮かべている。
そう、火が付いたままの、つまりは燃えている薪を何本も入れたのだ。
「ああ・・・、大丈夫だ。熱くなんかない。」
祖父がそう断言をしてくる。
で、哲司もようやくそのツボの蓋に手を触れる。
「ん!」
「どうだ? 熱くなんかないだろ?」
「う、うん・・・。」
哲司はそう言ってからおもむろにその蓋を開けてみる。
そして、中を覗き込む。
「あんまり、顔を近づけるな。灰を吸ってしまうからな。」
祖父がそう注意をしてくる。
(つづく)