第8章 命が宿るプレゼント(その143)
「勝ったり負けたり・・・。
それがごく自然な事なんだ。
そうして、誰しもが育っていく・・・。」
祖父は、改めて哲司の顔を見るようにして言ってくる。
「これが答えだ」とでも言いたげにだ。
「勝ったり・・・、負けたり・・・。」
哲司は、その言葉を口の中で繰り返す。
まるで、何かの呪文のようにだ。
どうしてそうしたのかは、自分でも分っていない。
ただ、何となく、心地良い言葉のように思えたからかもしれない。
「でもな、人間ってのは、負けたほうが賢くなるんだぞ。」
祖父は、突然のように話を飛躍させる。
「えっ! ・・・ ど、どうして?」
哲司は、何とも間が抜けたような問い方をした。
あまりに意外な言葉だったからだ。
頭が付いて行ってない。
「負けたら、誰しも悔しいだろ?」
「う、うん・・・。」
「次は、次こそは勝ってやる。そう、思うだろ?」
「う、うん・・・、そうだね。」
「勝つことにも理由があるんだが、負けることにもちゃんとした理由があるんだ。
つまりは、敗因だな。」
「ハイイン?」
哲司は、その言葉を知らなかった。
「負けた理由のことだ。」
「走るのが遅いってこと?」
哲司は、どうしてもリレー競争の域から出られない。
「う~ん、そういうこともひとつにはあるだろう。
でもな、その他にも理由がある。
その時の体調や精神状態ってのもその理由のひとつになることがある。」
「ああ・・・、そういうこと?」
そう言われると、哲司も頷ける。
風邪気味で熱が少しあったとき、それでも運動会に出たことがあった。
その結果は、やはりいつもより成績が悪かった。
リレーもそうだし、50メートル走でもそうだった。
玉入れでは、玉を投げ上げるのにも苦労をした。
それだけ体がだるかった。
「それに、相手との駆け引きもだ。」
「ん? カケヒキって?」
「つまりは、事前に考えていた作戦の誤りだ。」
「作戦?」
「リレーで言えば、誰がどの順番で走るかも重要だろ?
“用意ドン”でスタートダッシュを駆けるのが上手な子もおれば、途中で追い越すのが得意な子もいるだろ?」
祖父は、哲司のイメージに寄り添って話してくれる。
(つづく)