第8章 命が宿るプレゼント(その142)
「よ~し! それが分かってくれれば、爺ちゃんはもう何も言わん。
哲司が、どんな風に走って、そしてどんなバトンを次のランナーに渡すのかは、これからの哲司次第だからな。」
祖父は、両手をもむようにしながら言ってくる。
「ぼ、僕しだい?」
哲司は、どうしてか、学校での宿題を出されたときのような感覚に陥る。
「どっちみち、自分では出来ないのに・・・」という言い訳が頭をもたげてくる。
「ああ、そうだ。そのとおりだ。」
祖父が即座にそう返してくる。
「リレーだってそうだろ?
前の走者が、そうだな、例えば途中でこけてしまって、膝小僧から血を出しながら、それでも途中で走るのを止めたりしないでちゃんとバトンを渡してくれたら、仮に最下位だったとしても、次の走者は“よ~し! 頑張るぞ!”って思えるもんだろ?」
「ああ・・・、そ、それは、そうだね・・・。」
哲司にも、そう言われればよく分かるものがあった。
事実、リレー選手に選ばれて出場した際、哲司の直前のランナーがコーナーで転んだのだ。
最下位では無かったが、混戦だったのに、最後から2人目にまで遅れてしまった。
そのバトンを受け取ったとき、前のランナーだった女の子が今にも泣き出しそうな顔だったのを今でもはっきりと覚えている。
で、哲司の闘志に火が付いた。
「よ~し! 俺に任しとけ!」
哲司はいつも以上に懸命に走って、遅れていた差を縮めて、次のランナーにバトンを渡す直前には何とか2人を抜いていた。
結果として、哲司が所属していたチームは2位だった。
メンバーからすれば、当然にトップを独走できると思われていたから、それは予想外の順位だった。
それでも、走り終えた哲司は最高の気分だった。
そう、順当に何事もなくトップを独走したよりもだ。
「だからな、結果だけじゃ無いんだ。生きるってことも、リレー競争も・・・。」
祖父は、にっこり笑うようにして言ってくる。
そして、言葉を続けてくる。
「そりゃあな、競争って言うぐらいなんだから、1位になることも重要なのかも知れん。
でもな、すべてのチームが優勝することはできんだろ?
1位になれるチームもあれば、当然に2位、3位・・・、そして最下位となるチームだっている。
それは結果だ。しかも、たまたまのな。」
「たまたま?」
哲司が口を挟む。
リレーの選手として走った経験がある哲司は黙っていられなかった。
「ああ・・・、たまたまだ。
優勝したチームだって、いつやっても、何度やってもずっと1位ってことは無いだろ?」
「う、う~ん・・・。」
哲司は、先ほど思い浮かべたリレーのシーンを重ねている。
(つづく)