第8章 命が宿るプレゼント(その141)
(ひょ、ひょっとしたら・・・、お母さん、僕がそんな事を言ったのを爺ちゃんに告げ口したのかもしれない・・・。)
哲司は、内心、そう思った。
だから、爺ちゃんがこうして僕を叱ってるんだと・・・。
「生きるってことは、言わば、命のバトンを次の世代に手渡しすることなんだ。」
祖父が両手を使ってバトンリレーの仕草をしながら言ってくる。
「バトンって・・・、リレー競争みたいに?」
哲司は、それしか思い浮かばない。
「ああ・・・、そのとおりだ。
あのリレー競争って、前の走者からバトンを受け取って、そして懸命に走って、次の走者にバトンを渡すんだろ?」
「う、うん・・・。」
「だから、疲れて来たからって、あるいはこけたからって、途中で走るのを止める訳には行かないだろ?」
「う、う~ん・・・、そうだね。」
哲司もリレーの選手に選ばれることが多かったから、その走者の気持はよく分かる。
「それと同じなんだ。」
「ん?」
「哲司の後には必ず次の走者が待っているんだ。
哲司がそのバトンを渡さなかったら、次の走者はいつまで経っても走り出せないんだ。
そうだろ?」
「・・・・・・。」
哲司は、黙って大きく頷く。
「それをだ。
“いやぁ、僕、疲れちゃったから走るの止めるよ”とか、“こけて膝小僧を擦りむいたから、走りたくない”とか言えるか?」
「・・・・・・。」
今度は、哲司、首を大きく横に振る。
「それは出来ない」と言いたくてだ。
「そうだろ?
人間が生きていくってのも、そのリレーと同じなんだ。
哲司にバトンを渡してくれたのはお父さんとお母さんだ。
そして、哲司が次にバトンを渡すのは、哲司の子供なんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は何も言えない。
「だからな、間違っても、“生まれてこなければ良かった”とか言わないことだ。
それって、一旦受け取ったバトンを道端に捨てるのと同じなんだからな。
それまでバトンを懸命に繋いでくれた選手たちの努力を無駄にしてしまうことだろ?」
「・・・・・・。」
哲司は、何度も大きく頷く。
(つづく)
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