第8章 命が宿るプレゼント(その140)
「だ、だったら・・・。」
哲司は、それに続く言葉が見つからない。
即座に、「だったら・・・」と反応したのだが・・・。
ひとつには、「だったら、人間はどうなるの?」であり、もうひとつには「だったら、どうすれば良いの?」が付いてくる筈だった。
それなのに、息を継いだ途端に、そのいずれの言葉もそれに相応しくないような気がしたのだ。
「命は自分のものだ、自分だけのものだ。
誰にも渡さないし、誰の指図も受けない。
そう考える人間があまりにも増えた。」
祖父は、まるで遠い昔を思い出すような目をして言ってくる。
「ん? そう思っちゃいけないの?」
哲司は、恐る恐る問い返す。
少なくとも、今の哲司にも、同じような気持があるからだ。
「ああ・・・、そうだ。
命は、自分のものじゃあない。ましてや、自分だけのものでもない。」
「で、でも・・・。」
哲司は、それは「ウン」と言えない。
自分の命でなければ、一体誰の命だと言うのだろう?
「何度も言ったような気がするが・・・、人間は一人じゃあ生きられない。」
「う、うん・・・。」
哲司は、「それは分かる」という言葉を飲み込んでいる。
テレビで見た「無人島生活」なんて、とてもできゃしない。
やっぱり、誰かと一緒でなければ・・・、とは思う。
「第一、自分だけでこの世に生まれてきたと思ったら、大きな間違いだ。
お父さんとお母さんと言う人間がいたからこそ、この世に生まれてきたんだからな。
それは、哲司も分かるだろ?」
「う、うん・・・。」
「それなのにだ。今の子供は、“生まれてこなければ良かった”とか、“生んでくれって頼んでない”などと悪態をつく。」
「・・・・・・。」
それは、哲司も口にしたことがあった。
どういう場面だったかは忘れてしまったが、兎に角、なんかのことでこっぴどく叱られたときだったように思う。
「それって、自分を自分で否定しているつもりなんだろうが、とんでもないことだ。
この世に産んでくれて、つまりは、命を与えてくれて、そして今日までその命を育ててくれた両親に対しての最大の侮辱だ。
人間として、絶対に言ってはならんことなんだ。」
「・・・・・・。」
哲司は言葉が無い。
(つづく)