第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その38)
それでも、哲司は積極的に訊こうとはしない。
その「伝わっていると思われた話」については。
それでなくても、今、既に聞かされている話だけで手一杯、いや頭が一杯なのである。
どこの誰かも分らない男の子供を宿した高校生。
その子と付き合って欲しいとその祖父や叔父から言われたのだ。
常識的には、あり得ない話である。
その話の真偽を確かめようと、今、こうして当の本人である奈菜と向き合っている。
これ以上は、もう整理する気持すらついてこない。
そして、そうした哲司の雰囲気を感じてなのか、奈菜も先ほどまでの積極的な話し方はしてこない。
哲司の次の言葉を待っているようだ。
そうした間を繋ぐつもりなのか、マスターがもう一杯珈琲を入れて持ってきた。
「新しいのを入れましたから。」
そう言って、哲司の前にカップをそっと置く。
そして、シュガーケースの蓋を開けて、中から角砂糖をひとつ取り出してカップの中に落とし込んだ。
「さ、熱いうちにどうぞ。」
そう言って、マスターはその場を引き上げようとした。
哲司が慌てて言葉をかける。
「ねぇ、マスター・・・・・・・。」
白髪が混じった頭がこちらを振り返る。
「はい。」
互いに、なかなかその後の言葉が出ない。
顔を見つめあうだけになる。
「いえ、いいです。」と哲司。声を掛けたことを撤回する。
そこで勝負があった。
マスターが踵を返してくる。
「貴方にお願いしたいことは、すべて先ほどお話を致しました。
この奈菜と、少しだけでも付き合ってみて頂けないかと。
それだけです。他に意味はありません。」
マスターはきっぱりとこう明言した。
「奈菜もまだ貴方のことはよくは存じておりませんし、当然に貴方も奈菜のことはまだ殆どご存じない。
たまたま、偶然というか、若いふたりがとあるコンビニで出会った。
奈菜も貴方のことが気になっているし、貴方も奈菜のことを苦々しくは思われないとのこと。
それであれば、ほのかな恋心が芽生えても、それは不思議でも何でもありません。
一度、お茶でもどう?ってことからでいいのです。
そこから、改めてお願いをしたいのです。」
(つづく)