第8章 命が宿るプレゼント(その138)
「ん?」
祖父は、何を言っているのかという顔を向けてくる。
「こ、これ・・・。」
哲司は、たった今蓋をしたばかりのツボを指差して訴える。
このままで良い訳は無いでしょう?
そう思ってのことだ。
「ああ・・・、それな。そのままでほっておいてくれ。」
祖父はそれだけを言うと、そのまま台所へと上がっていく。
(う~ん・・・、そ、そんなこと言ったって・・・。)
哲司はより一層不安が大きくなる。
それでも、あそこまで祖父に明言されると、どうして良いか分からない。
ただ、そのツボの前を立ち去りがたい気持だけが強くなる。
「哲司・・・、良いから、こっちに来い。」
台所から祖父が呼んでくる。
まるで、哲司の気持が分かっているようにだ。
「う、うん・・・。」
哲司は、振り返り振り返りしながら、台所へとゆっくりと上がっていく。
「あははは・・・。あの壷のことが気になるんだろ?」
やはりだ。
祖父は、哲司の気持をズバリと言い当ててくる。
「・・・。」
哲司は黙って大きく頷く。
祖父にしっかりと見て欲しいからだ。
「大丈夫だ。火事なんかにはならん。
そのための、火消し壷なんだからな。」
「で、でも・・・。」
哲司は、今一度ツボの方に視線を向ける。
「どうだ? 何ともなって無いだろ? 煙さえも出て無いだろ?」
「う、うん、そ、そうだけれど・・・。」
「良いか、哲司。よく覚えておくんだ。
火は、空気がなければ燃えないんだ。」
「ん? ほ、ほんとに?」
「ああ・・・、間違いが無い。
だからな、ああして燃えている薪でも、あの火消し壷に入れて蓋をしてやると、すぐに中の空気がなくなって火は消えてしまうんだ。
何も、水を掛けなくっても、自然と消えていくんだ。」
「ほ、ほんとに?」
哲司はまだ信じられない。
「あと5分もしたら、蓋を開けてみろ。綺麗に消えているから・・・。」
祖父は大きく頷くようにして言って来る。
(つづく)